コピー禁止

2017/12/18

ウーマンラッシュアワーのラッシュを支持する

ウーマンのネタは伝統芸

漫才コンビ・ウーマンラッシュアワーから目が離せなくなりました。
「THE MANZAI 2017」での時事ネタは、原発の立地、沖縄の米軍基地、ないがしろにされている震災被災地の復興問題等々、社会の不平等やゆがみを笑いに包んで訴える芸。以前はただの早口だったボケの滑舌がだんだん良くなってきた。テレビの永田町に対する萎縮が顕著な風潮下、ツッコミも新しい試みによくついていく決意をしたものですよ。お子ちゃま狙いの漫才から、幅広い層の観客に笑いを届けると同時に脳みそを使わせる方向性に転換しました。ウーマンが到達したオンリーワンの芸風の今後を、お笑いファン、歴史好きとして注目していくつもりです。
この笑いは、日本から絶えて久しいものです。その歯に衣着せぬ舌鋒が国民を熱狂させた三木鶏郎やコロムビア・トップ・ライトの後継者になれるか、期待しています。三木には、自民党の要職にあった佐藤栄作が激怒、番組が国会で審議されるところまで行きました。
ウーマンもそこまで行け、行くんだ。ちょっと荒っぽい進行でしたけど、ネタも次第に洗練されていくでしょう。「これで笑わせたる」という使命感が伝わってくるのが清々しい。所属事務所の吉本興業も、何かあったら逃げずに守ったれや。
彼らが先人の笑いの手法を知っていたとは思いづらいから、ドナルド・トランプ大統領を徹底的にコケにする米国のコメディアンらを参考にしたんでしょうか。ジョン・オリバー(John Oliver)とかね。
ウーマンラッシュアワーのラッシュは、新しい漫才ジャンルの開拓であると同時に、表現の自由を保障した憲法下の我が国でしばらく継続された伝統の笑いの復活につながる可能性もあるのです。

「笑われる芸」のくだらなさ

今回のネタのつかみにあったように、お笑いを突き詰める仕事であるはずの芸人たちが、コメンテーターやキャスター、識者として良識を語るのが流行っています。そんなヒマあったら笑わせろや。先日のM-1グランプリでも、変なキャラを押し出して笑われることが、芸能だと勘違いしているコンビがぎょうさんいてましたな。
テレビ黎明期から大活躍したコント作家・はかま満緒は、萩本欽一さんや脚本家の市川森一らを発掘したことでも有名ですが、それだけに笑いの質に厳しい眼を持っていました。1986年11月27日付の朝日新聞「お邪魔します」(山崎陽一記者)より引用します。
(前略)「百年ほど前の、エジソン型蓄音機です。ゼンマイ式で、円筒形のレコードの上を針が走る。聞いてみます? トランペットのマーチ、大きな音が出るでしょ。雑音が入るけど、シャンソンなんかだと味わいがあると思うな。当時としては画期的な商品だったんでしょうね。ロンドンの知人に頼んで骨とう店で探してもらったんです」
ーーわざわざ聞くために?
「コンパクトディスクや、レーザーディスクで、いい音が当たり前になっちゃった。うちの娘たちにしても、その有り難みがわかんない」
「……で、古きものに立ち返るのも今を知るうえで大切と思って、あえて聞き比べるんです」
ーー古きものを見直す。笑いの世界でも?
「チャプリンの笑い、その奥には良識と主張がありましたよね。最近のお笑いブームはギャグの羅列や、一部の人気タレントに支えられてるだけ。笑わせる人より笑われる人が多いですねえ。笑いは涙より難しいんです」(引用おしまい)
昨年亡くなったはかま満緒がウーマンの漫才を見たとしたら、何と言ったでしょう。安易なギャグの羅列、おのれの頭の悪さを売り物にしたひねりのない自称「自虐」に堕することのないチャレンジの感想を、テレビの笑いの一時代をつくった巨人から聞いてみたかったものです。
国民の支持を受けてビッグバン級の大ブレイクを果たすか、権力とそんたくに潰されるか。
NHKも取材に来るかもよ。「ニュースウォッチ9」みたいな政府広報番組は無理だろうけれど、いずれ“国営電波”でも堂々と漫才やってほしい。国営の放送局を嗤うネタなんかはいかが?
死刑囚の息子を取材したドキュメンタリー放送に続く、社会性に目覚めた兆しのあるフジテレビ・ゴールデンタイムの放送枠ともども要注目です。