コピー禁止

2016/01/03

グダグダ紅白歌合戦

あけましておめでとうございます。昨年の大晦日にしょうもないテレビ番組を見せられました。今年も先行きが心配です。
グダグダ歌合戦
冒頭に「戦後70年」と大々的にうたって始まった第66回NHK紅白歌合戦。周知の名人や新発見にわくわくする場面もありました。
島津亜矢さんやレベッカのドラマーには上手いなあと感心。X JAPANに関しては、歌詞の好悪はともかくボーカリストの表現力が以前より上がっているとか、以前はドタバタして好みじゃなかったドラムスが落ち着いてきた、とかね。圧巻は美輪明宏さんの「ヨイトマケの唄」でした。「あの唄が」パートの鼻濁音は、標準語で仕事をするタレントやアナウンサーのメルクマールでもあります。
黒焦げになったマジンガーZみたいな有働由美子アナのセクシードレス、モンティ・パイソンのバカ歩き省コントをほうふつとさせる綾瀬はるかさんのJソウルブラザースダンスなど笑いどころもたっぷり。しかし、全体の出来は残念だとしか言いようがありませんでした。
まず、ディズニーとジョージ・ルーカスにいくら払ったんだって話です。ディズニーキャラの大量発生と、唐突な「STAR WARS」大会にあきれました。国民の大部分が戦後70年をミッキーマウスとともに歩んだとは思えないし、嵐がチャチなライトセーバー振り回さないと年が明けないと熱望する視聴者が、全世界に何人いるというのか。大金使って嵐を接待したようにしか見えませんでした。
アニメメドレーも同様。民放の人気作品をつないで何になる。こども番組を紹介するなら、「ひょっこりひょうたん島」「名探偵ポワロ」などで長年活躍したNHKの功労者であり、昨年死去した熊倉一雄が歌う「ゲゲゲの鬼太郎」でも流せば良かったんです。朝ドラの出演者にアホみたいな台本のカラッポセリフを言わせて、水木しげるをしのぶふりをした演出よりも、よほど効果的だったでしょう。戦後70年を代表するアニメが「妖怪ウォッチ」とは笑止千万。その安易さに、視聴者はゲラゲラポーです。
舞台袖の芸人集合も流れをぶち切る効果しかありません。クマムシなんか、その存在すら忘れてたわ。どぶろっくは、なぜ出してもらえないんだ? 大河ドラマ「花燃ゆ」で一橋慶喜、島津久光の重鎮を演じたNHKの貢献者であるぞ。
ゆるキャラを集めた関ジャニ∞の舞台に「もゆるん」がいないのも納得がいかん。大金はたいてサンリオに作らせて「花燃ゆ」の宣伝をやらせた大事な大事な大河のシンボルではないか。審査員席の堺雅人さんと掛け合いでもやらせて、「『真田丸』も『花燃ゆ』同様、やりきってくださ~い!」くらい言わせるのが、放送局の大好きなバトンタッチ方式じゃないのか。本来なら、もゆるんが目立つべき場所で茨城県関係のマスコットが大暴れしたのは、大河が水戸藩士を無視抹殺した件に対する罪滅ぼしだったんですか? 乃木坂46が賑やかしの輝かしい大河出演を果たした一件にも、どうして触れないのだ? 2015年の大河ドラマ「花燃ゆ」は、どこへ行ってしまったのだあ!?
終いには、審査員のスケート選手を壇上にかつぎ出して、歌まで歌わせやがりました。見え見えの視聴者つなぎとめ工作です。視聴者は歌合戦でプロ歌手の芸能を見たいのよ。羽生結弦さんの優雅な姿は氷上で見たいの。羽生選手が歌うの承諾したからOK? NHK杯という権威ある国際大会を持っている放送局から「歌ってくれ」と頼まれたら、そりゃアスリートは飲むでしょうよ。公共放送の報道局サイドは恥ずかしいと感じないのか、ご意見を拝聴したいものです。
ここでも視聴率コジキ
だれもが知っているコンテンツをそこら中から寄せ集めて、視聴率稼ぎを画策したのが昨年の歌合戦でした。「戦後」を感じさせられたのは美輪さんの歌だけ。スローガンを掲げたところで、根底に一貫したテーマががない。とにかく、ウケた(とNHKが考える)物事を詰め込む、整合性には頓着しない、バランスなんて知ったこっちゃない。何が何でも、視聴率がほしいんです。
大河ドラマ、紅白歌合戦……。すべてに高視聴率獲得が目的と化した番組づくりがまん延しているのはどうしたことでしょう。戦後70年を中心に据えるのであれば、歌謡史を振り返って臨む意気込みがあってほしいものです。無知と傲慢に彩られた視聴率コジキの制作態度は、2015年で終わりにしていただきたい。
今日は、紅白制作の舞台裏を明かした1976年12月12日付の読売新聞「NHK『紅白』 わかる面 わからない面」(桑原宏記者)から、この病について考えてみます。以下に引用します。年号は昭和です。
(前略)出場歌手を決める最終コースは「ご意見をうかがう会」。池田弥三郎さん(注・文学者)など8人がメンバーで、45年に発足した。
人選が“趣味に偏る”といわれ、こうした機関で妥当性を持たせようとした。
前々会長の前田義徳さんは当時、記者会見でこんなことを言った。
「皆さん(世論)が納得してくれるなら、こうした会をつくることを取り下げてもいい」
かくれみの、が見え見え。前田さんはテレ笑いをしていた。
“NHKのお祭り”の方が、主体性があったのに、このときから世間の目を気にする“公的行事”化した。
(中略)基準になるのは、世論調査調査所が行う「日本人の歌の趣好調査」。
この結果は、歌手選びの大きな要素だが、日本人と歌の関係がわかって興味深い。
トップは「民謡・日本調の歌」、次いで「演歌」「フォーク、ロック」「洋風の歌謡曲」。ただし、2位と3位の間には29%もの差がある。
調査は13歳から60歳以上までの3600人。では13歳未満はどうなるのだろう。
450万枚売って、レコード販売史上6位「およげ!たいやきくん」の子門真人が落ちた。
子供にせがまれ親がレコードを買う。こんな形態はデータ中心の人選から割り出せない。
調査には念を入れ、ファンの心情を考慮したアンケート(1万通)もある。
アンケートに名前が出てこなかったのが子門と内藤やす子。新人は曲でおぼえてもらうか、名前、キャラクターで売るか、むずかしい。
「弟よ」「想い出ぼろぼろ」(内藤)、「およげ!……」と書いただけではこの場合、データにならない。(引用おしまい)
戦後70年、時代を映す幾多の曲が、かつてはありました。「たいやきくん」がその一つであるは、言うを待ちません。子門真人さんは、現在リタイアされているようですが、アメリカのネズミに渡したドルとは比べ物にならないわずかな額のギャラで、一夜限りのカムバックを願う、またはアニメコーナーで現役歌手が歌うなどのプランを歴史に学べなかったのか。全盛期に紅白出場をはばまれた子門さん、そして視聴者へのサービスであったとは思えませんか?
どう選ぶ歌手
放送局の官僚体質が見え隠れする典型例を記事から読み取ることができます。CDが売れないと言われる昨今、歌手の選考基準は視聴者にますます不透明。ネットでは芸能事務所の力関係などとささやかれていますが、当時はどうだったのでしょうか。引き続き同記事から引用します。
歌手選考には三つの柱がある。「視聴者の支持」「歌唱力」「ことし活躍、話題になった人」。
実はスタッフが選んで、3項目を当てはめると、20組ぐらいまではすらすらと出てくる。
それからの4組をどう理由付けして決めるかで、データを振りかざすのは、いつもいいわけの伏線。
“紅白”はべらぼうな数の人に見られる。スタッフにしても、前年比のレーティングをメドに、「勝った」「負けた」とやっている。
「放送するからには、うんと視聴率を稼ぎたい。私が担当して、もし史上最下位だったら、やっぱりイヤですよ」
演芸番組担当・青野雅哉部長の発言は正直だ。
10班編成60人ものスタッフを動かし、5か月がかりでいどむ。さりげなくよそおうNHKの中で、ここだけは燃えている。
ここ数年の視聴率は、下降線をたどっている。オイルショック以降、浮かれムードに水がさされた。民放の健闘もある。
(中略)民放の歌番組を盛り上げようとする「歌謡大賞」、業界振興の「レコード大賞」にくらべ、“紅白”は“お遊び”からはじまった。
いつの間にか看板になって、NHK自体がむずがゆさをのぞかせる。そして、歌手の格付けのところだけが、強い色調になってしまった。(引用おしまい)
どうやら歌手選考のむずがゆさは、むずがゆいまま放置されているようです。それとも習い性になって、かゆみを知覚できないところまで病状が進行しているのか。
「浮かれムード」という言葉に注目します。実体経済とかけ離れた債権バブルが株価のみを押し上げ、デフレが止まらぬ空気は、高度経済成長にとどめを刺した第一次オイルショックに比することができるでしょう。
皆がしんどかった、働き尽くした2015年の締めの日に、テレビの中だけで繰り広げられる、歌手の羅列延々たるバブリーな“会議は踊る”。
テーマなき歌合戦が続く年ごとにNHKにぶつけたいのは、「視聴者を愚民視するな」の一言です。