コピー禁止

2015/11/17

モーターサイクルショー ケルンじゃなくて、ミラノの衝撃

1980年、西ドイツはケルンで開かれたモーターサイクルショーにスズキが提出したコンセプトバイク「GSX1100S KATANA」(後にほぼそのまま市販)は、あまりにぶっ飛んだデザインだった故、マニアからは“ケルンの衝撃”と呼ばれているそうです。
もうすぐオープンするイタリア・ミラノでのショーにBMWが出品する「R310R」というオートバイのデザインに、“ミラノの衝撃”とも呼ぶべきインパクトを感じました。まるっきりスズキじゃん。BMWのスズキ化かよ!? 35年ぶりにスズキ絡みの衝撃が世界を席巻するのか。今回、スズキは能動的に何もしていないんですがね。
BMWの新作がこれ。スズキがインドで生産している「Gixxer150」はこちら。ソックリでしょ。やっと世界のセンスがスズキに追いついた! スズキのデザインは世界一ィィィィ! この持ち上げ方は、ちょっと違うな。
こいつがパクリだとも言うつもりはありません。どこの社もモーターサイクルのデザインが画一化してきていて、「ストリートファイター」などとぬかす、安全に公道を走行すべき車両を“ファイター”と呼ぶとは何事ぞ、と思わせるメディアのアオリ風潮に違和感を感じる昨今ではありますが、その話は今回の主題ではありません。
疑うべきはBMWのデータリテラシー。グローバル化とインターネット普及による情報の共有化が進む現在、スズキのデザインを知らなかったとすればマヌケだし、心ないブランド差別主義者たちから「ドイツ人が造ったプロペラマークの付いたスズキ」と悪口を言われかねないリスクを含んでいます。この時代、他社のモノマネだと思われかねぬ製品を発売するのはブランドイメージの棄損。トヨタがドイツ車のコピーを避けたり、ホンダがイタリアンバイク意匠の後追いをしない(してないよね)のは、大切な企業防衛策でもあるのです。
さらにややこしいのは、G310Rの製造元・インドのTVS Motor Companyが長い間スズキの合弁会社だったこと。ますますスズキの影響を受けたと疑われかねません。「インド人が持ってきたデザイン」だと、後々ドイツ人が言い抜けるのはやめてね。全長(G310R・1988mm、Gixxer150・2050mm)、タイヤ(G310R・フロント110/70-R17、リア150/60-R17。Gixxer150・同100/80-R17、同140/60-R17)と、車格も近いし。
盗用が疑われると、それが国家の信用にそのままつながることがままあります。東京五輪のエンブレム問題や中国のコピー商品はそれに該当しますね。今日は日本の輸出品が外国のパクリだと指弾され、国際問題となっていたころの1959年6月29日付朝日新聞夕刊「今日の問題」を取り上げます。
来月には岸(信介)首相が遠路はるばる出かけてゆこうというのに、在英日本大使館がまた、英国の経済団体から、日本のおもちゃ製造業者のデザイン盗用に対する抗議をもちこまれたのは、ちょっと気になるニュースである。一昨年秋、藤山(愛一郎)外相がロンドンに招待されたときには、無遠慮なテレビ記者が、空港で意匠盗用の商品小箱をつきつけて、意見を求めるというような一幕もあった。同じようないやがらせの材料にされはしないかと、心配されるわけだ。
相手は何しろ、この問題には特に神経質な英国だ。それに、今年の春ブライトンのおもちゃ展覧会に、日本の金属おもちゃ製造業者の団体が見学に行ったときにも、日本の業者は意匠を登用するから見せない、というような問題もあったのを、「日本の方が進んでいるから、特に英国から真似をするものもない」と大見栄を切った手前もあるから、なおさら具合が悪い。
つくったのはだれか、自分の“創意”で真似をしたのか、よくあるように外国のバイヤーの注文で作ったのかなどは、まだ分らない(ママ)が、首相がきかれてマゴつくことがないように、徹底的に調べ上げる必要があろう。
近ごろは、日本でも意匠盗用の問題はやかましく注意するようになり、繊維、陶磁器、雑貨の三業界では、業者が自主的にデザイン・センターをつくって、海外や国内のデザインを盗用した輸出商品を防止しようとしており、また今年の通常国会では輸出品デザイン保全法が成立した。この法律によって、通産大臣が指定した特定の品目には、国の「認証機関」が意匠の登録、盗用の防止に当る(ママ)。さし当り雑貨の一部がそれにしてされる予定だが、外国の意匠ではやはり、まず登録か、少なくとも通告がなければ、この認証機関もいかんともできにくかろう。(引用おしまい)
ネットも、ひんぱんな海外旅行の機会もなかった時代ですら、これだけの摩擦がありました。自社製品の意匠に気を配るのは企業の当然の義務でしょう。その点、スズキの二輪車は大丈夫。KATANA、グラディウス、RE-5、SW-1等々、よそがマネしたくないマネしたくてもできない独創に徹していますから。
BMWをディスっているのではないのですよ。昔からこのメーカーを信頼していましたので、数台の所有歴があります。R1100RSあたりから造りの安っぽさを感じ始め、台湾製エンジンのスクーターが出たところで、何を売りたいのか、売れればそれでいいのかと首をかしげました。そこに現れたG310R。BMWがとても心配です。
内燃機関を生んだ国で100年近くもモーターサイクルを製造している会社には、今後とも業界全体をけん引してもらいたい。今回の見落としが残念なのです。スズキのデザインに心底ホレちゃった、というなら話はまた別ですが。