VWとの提携を取り消したスズキは、ギリギリのタイミングで会社のイメージを守ることができました。とはいえ、前途は多難。米国市場からの撤退に続いて、ブランド力向上を狙った“海外戦略高級車”「キザシ」も生産中止が決まりました。スズキファンにとって、特に心配なのが二輪事業の低迷。赤字体質からの脱却が急務です。
この夏、スズキのディーラーを訪れた(愛車のリコール修理)ついでに、オートバイの販売店「スズキワールド」ものぞいてみました。車検のない排気量250ccクラスの中古ロードスポーツ車はないかと尋ねると、GSRというモデルを紹介されました。ラジエーターの覆い(シュラウド)のでっかいのがシュミではないと告げると、困った表情を浮かべた店員さんは、羽根のマークが描かれた真っ赤な
スズキの小排気量スポーツタイプはGSR一択。入門車のラインナップが少なすぎます。「選択と集中」を掲げて、利幅の大きい大型車に注力してきたスズキですが、高級車が売れないこのご時世、カネのない若者を将来の大型車購入者とするための長期的配慮に欠けています。このクラスでの公道仕様のオフロード車も消えました。車種が少ないから店内の体裁を保つためか、玄関入ってすぐの一等地にはカワサキの250TR(絶版)がディスプレイされています。週末だというのに客の駐輪場には、15年も前に生産が終わったテンプターという、重度のスズキマニア向けマシンが1台あるだけ。
新車ディーラーが、他社の中古車販売ならびに懐古車の車検・修理受付店になっちゃってます。お店がかわいそう。趣味性の高い二輪乗りは、カネを酔狂目的で使う連中です。生産効率の追究と安売り路線だけの内向きの魅力にはついてきません。スズキには小中型排気量への挑戦的戦略が必要だと思います。長期的展望への詰めの甘さが気になります。
スズキのオートバイ造りは本来、新技術や独創的にすぎるデザインをいち早く商品に導入するところに特徴がありました。それについては、多くの書籍やウェブサイトで紹介されていますのではしょります。今日は、スズキが生み出した数多くの名車珍車群より「GSX-R750R」と「TL1000」にまつわるお話から、今後同社に求められる姿勢について考えてみます。
GSX-R750は、この名で長年製造されてきた大型車の看板、TL1000は1997年に登場したスーパースポーツ車です。ご愛用者には申し訳ありませんが、特にTLの方は独自機構だった「ロータリーダンパー」の名称でググると、今回問題にしている「甘い詰め」を体現したモデルだったとわかります。1998年7月8日付の朝日新聞「スズキオートバイとポルシェ車リコール」より引用します。
(前略)スズキは同日(7月7日)、同社のオートバイ「GSX-R750R」と「TL-1000S」の2車種で、燃料タンクから燃料が漏れる恐れがあるとして、同省(運輸省)に計約1600台のリコールを届けた。95年12月から97年7月までに製造された車が対象。(引用おしまい)よくあるリコール記事。リコールが悪いと言うつもりはありません。人間は間違いを犯す動物です。顧客の安全を守るため、失敗を認めるのは正常な企業。スズキはマトモな会社です。ところが……。同年11月18日付の同紙「スズキ430台リコール」から引用します。
スズキは17日、同社のオートバイGSX-R750とTL1000Rの2車種で、燃料ポンプと燃料フィルターを結ぶホースの形状が悪く、最悪の場合、ホースが抜け、エンジンが停止する恐れがあるとして430台のリコールを運輸省に届けた。1月から7月までに製造されたものが対象。(引用おしまい)同じ車種で、同じ燃料系の不具合。朝日新聞の記者が、間違って4カ月前の資料を再録してしまったのかと思いましたよ。ガソリン供給に問題が見つかれば、そのライン全体を見直すのが普通でしょ。各記事のTL1000の末尾に「S」と「R」の違いがありますが、基本は同じ車。「S」がおかしいとわかったら、同時に「R」の方も調べようよ。二重に詰めが甘いんだから。低コストが売りの会社でも、安全コストには手間とカネをかけてえな。まあ、今のスズキではこんなことないと思いますけど。
鈴木修会長の著書「俺は、中小企業のおやじ」は大変面白い。大小の会社を比較すれば、1社あたりの社会的責任は当然大企業の方が大きいですよね。スズキは大企業です。でも、このリコールの記事から読み取れるように、どこかに「この辺でいいや」と自己判断してしまう、悪い意味での中小企業的社風が残っていないか心配です。
若いころから同社のカタログやチラシの誤植を幾度も目にしてきました。今やネットの定番ネタになっています。現在も引き継がれている、「スポーティさ」なんて田舎臭いキャッチコピーのセンスもスズキならでは、などと笑えなくなっている二輪部門の状況。製品だけでなく言葉一つにも妥協を許さぬ態度が求められます。
手抜きが会社の信用を失墜させる事例が続いています。スズキ二輪は長期赤字の正念場。クルマだけのスズキなんてメーカー、想像できませんよ。復活に期待します。