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2015/07/18

安倍晋三とニクソン、東京新聞とNYタイムス

東京新聞は普通の新聞です。大手では唯一の普通の新聞かもしれない。衆院本会議を通過した戦争法案(安保法案)を、「違憲だ」と正面から断じているのは、当方見る限り東京のみです。普通ではなく、まっとうと呼んだ方がいいかもしれません。それほどに「普通の新聞」がなくなりました。
東京新聞は、非常識な建設費問題で国立競技場計画が白紙となった件を伝える7月18日の朝刊でも、功労者の建築家・槇文彦さんをきちんとフォローしていました。競技場のデザインは、国民を重税苦から救った英雄であり、コスト意識のあるアーキテクト槇文彦に任せられるべきだと思うのですが、いかがですかねえ。
一強他弱は政界にとどまらず言論の世界でもそう。朝日新聞なんか、だらしないねえ。「立ち止まって考える」「民意」などの言葉遊びばかりで、ホントに読者が納得すると思ってんのか。違憲法案が衆院特別委を通過した翌日7月16日付の社説では、「これまでの安倍政権の歩みを振り返ってみよう」。何を眠たいこと言うてんねん。事が済んでから、ああだったこうだったと有料の床屋清談を読まされる身にもなっていただきたい。憲法問題からしっかり論じなさい、違憲なんだから。
「立ち止まって考える」「重く受け止めるべし」なんて言葉は、つい自分でも安易に使っちゃうんですが、対案なく言いっぱなしの時に朝日が使う常套句なんだと気がつきました。文章がアサヒ臭くならないよう、今後は控えるべく努めます。「今後の成り行きを見守りたい」というのもやめよう。NHKの解説委員が空っぽの怪説を締める際に乱発されます。
今日は、ベトナム戦争真っ最中のころの米国と、戦争法制絶賛推進中の日本を重ねてみます。リチャード・ニクソン大統領は、反戦世論を圧殺すべく乗り出します。スピロ・アグニュー副大統領は特定メディアを名指しで攻撃。大統領はAP、UPI、ニューヨークタイムス、ワシントンポストなど、政府に批判的な相手を除外して記者会見を開くなど、自民党の勉強会のごとき「メディアを懲らしめる」の挙に出ました。
45年前のアメリカ民主主義から、いろいろとお勉強させてもらいましょう。1970年7月8日付の朝日新聞夕刊「今日の問題」より引用します。
(前略)どんなに新聞が批判記事をのせても、少しも個人的にふくむところがなかった大統領は、トルーマンただひとりだそうだ。アイゼンハワーはろくに新聞を読まなかった。ケネディは直接、電話で記者に文句をつけ、ジョンソンは有力記者たちからあいそをつかされた。
ニクソン大統領はことあるごとに、ベトナム派兵の責任は自分にないことを強調したがっているようだ。が、1954年、アイゼンハワー政権の副大統領時代、ディエンビエンフーで苦戦中のフランス軍を救うため、米軍の派遣を提唱したのはニクソンその人だった。また彼は、1965年10月、ジョンソン大統領のベトナム政策を弁護して、ニューヨーク・タイムスにこう投書している。
「ベトコンが勝てば、アジアばかりか米国の言論の自由が、最後には破壊されることになろう。ベトナム戦争に負ければ、自由な言論の権利は、世界中から消えうせるだろう」
だが皮肉なことに、トンキン湾事件(注・米国がベトナム戦争に介入するための自作自演事件)をねつぞうして北ベトナム爆撃をあえて行い、議会をごまかして大統領に自由な行動を許す「決議」をさせたり、和平交渉のために北爆停止を主張した言論人をあたかも裏切者のように避難したのはジョンソン政府であった。
そしてニクソン大統領は、インドシナに長く傷あとを残すカンボジア侵攻作戦を行なった(ママ)。その当時ニューヨーク・タイムス紙は、これに反対する市民や学生のデモを大々的に報じるとともに、同社編集局長が記者に与えた“訓示”を読者に提供した。
「われわれは“あるがままに報道する”ということが、実は“わしのいうとおりを書け”とか、“わしの気にいるような記事をのせろ”といった約束や強要を意味する時代に住んでいる。だからこそ、タイムスの第一の基本的な綱領は、ニュース欄に客観性を保つことが非常に重要だとしているのであるーー」(引用おしまい)
リベラルだと思われがちなケネディが記者をどう喝するような弾圧体質で、我が国に原爆を落としたトルーマンがもっとも言論の自由の本質を理解していたのが興味深いですね。「議会をごまかして大統領に自由な行動を許す『決議』をさせる」ニクソン政権下の米国と、憲法違反の法案が国会で強行採決される現代日本の酷似性は注目に値します。
ニクソンは言いました。「ベトナム戦争に負ければ、言論の自由は、世界中から消えうせるだろう」。ベトナムでの敗北がアメリカの言論の死につながる論拠は? 南シナ海危機が日本の安全を脅かすから自衛隊を海外に出すべし等の虚論と共通する、うさんくささがあります。
大々的な反政府デモが行われている状況も同じです。「トンキン湾事件」は現在の日本ではまだ起きていませんが、自衛隊の海外出兵が可能になれば、それもわかりません。イラク戦争での幻の大量破壊兵器、盧溝橋事件など、戦争の理由づけとは案外簡単なものなのです。
ニューヨークタイムス編集局長の意識を共有している「ジャーナリスト」が何人いるものか。大事なことなので、もう一度その言を紹介しておきます。
「われわれは“あるがままに報道する”ということが、実は“わしのいうとおりを書け”とか、“わしの気にいるような記事をのせろ”といった約束や強要を意味する時代に住んでいる。だからこそ、タイムスの第一の基本的な綱領は、ニュース欄に客観性を保つことが非常に重要だとしているのであるーー」
“わしのいうとおりを書き、わしの気にいるような記事をのせている”ような新聞ばかりが目立つから、東京新聞のここまでの普通の姿勢に拍手を送りたくなるのです。