正午のNHKニュースに釘付けになった両目から温かいものが、 つーっとこぼれました。主権者たる者の無力を痛感するがゆえの涙。
自衛隊が戦争に参加できるようになるイカレた法案が、 衆議院特別委員会で強行採決される様が鮮明なデジタル液晶画面に 映し出されています。国民がみんなで信じて、 享受してしてきた民主主義が、まさに壊されていく瞬間。
おいNHK、なぜ可決した途端にカメラをスタジオに戻すんだ。 審議の中継すらできないのなら、 このライブだけは流し続けるのがスジだろう。 覚えておきたいんだ。こんなものをこしらえた奴らのツラを、 いくさ支度を始める連中の表情を、 次の選挙まで脳裏にとどめておきたいんだよ。
国の根幹である憲法に抵触する旨、 ほとんどの専門家が指摘している法を、厚顔にて成す。 本日をもって、日本は独裁政権国家となりました。
若いみんなは、これから外国語を猛勉強して、 インターネットなどで海外に信頼できるお友達をたくさんつくりま しょう。 いつでも民主主義国家へ逃亡する準備をしておくに越したことはあ りません。
戦争を憎み、平和とこどもたちを愛した、 児童文学作家松谷みよ子が健在であったなら、 いかなる感慨を覚えたでしょう。
松谷は共産党の上田耕一郎と仲が良く、同党を支持していました。 第12回参院選を控えた時期の松谷へのインタビュー記事、 1980年6月16日付の朝日新聞「参院 応援席から」より引用します。
ーー共産党に期待するものは何ですか。「そうねえ、この前の戦争に最後まで反対を貫いたのは共産党。今また、とてもキナくさくなっているでしょう。 戦争の足音をくいとめてほしいと思うのよね」 「青森にね、『鬼の目玉』っていう、こんな民話があるのーー。両目を抜かれている鬼がいた。『目玉をかえせ』と脅し、 拒絶する若者を日々さいなんだ。 若者と二人で幸せに暮らしたいと思う娘が、 ある日みかねて目玉を鬼に渡してしまう。と、 鬼の姿はめきめき大きくなって家をつき破り、目はらんらんと…… 」 ーーで、現代の鬼は。「うーんそれなの。一言でいえばファシズム、かなあ。私を含めて日本人って忘れっぽい。現在の生活、 その場さえ幸せならと、ついまた、(敗戦で) 取り上げた目玉を返してしまいかねない状況でしょ。有事立法( 注・鈴木善幸内閣による戦争法制プラン)とか元号問題(注・ 1979年、元号を政令で決める、 皇位継承時に元号を改めるとした元号法の制定。「昭和戦争」 体験者には抵抗がありました)とか、時々ぞっとするんですね」 (中略)ーー上田(耕一郎)さんとは30年前、長野の病院で療養生活を送った療友だそうですね。 どんな人でした。 「シャベリッチョというあだ名でね、おしゃべりで、ウイットに富んで、あたたかな人。最近もらった手紙でも、 看護婦のなにちゃんは今こうしていますって知らせてくれるんです よ。出会いをとても大事にしている」 「共産党にも官僚化の危険があるし、腹が立つこともある。でも上田さんは批判をぶっつければ、受け止めてくれる人。 血の通う、人間的信頼感があるんですね」(引用おしまい)
松谷みよ子の没後半年を待たず、「目玉」 は鬼の元に戻ってしまいました。 再び取り上げるのは至難の業かもしれません。
でもね、今ならまだ間に合います。 選挙権のないこどもたちにだってできることはある。 そのひとつが、 松谷みよ子が残したすぐれた児童戦争文学を読むこと。「 ふたりのイーダ」や「ミサコの被爆ピアノ」……。 たくさんあります。戦争が何をもたらすのか、 しっかりと学ぶことができます。
お父さんやお母さんには「現代民話考」シリーズがオススメです。 軍隊や銃後の暮らし、思想統制のお話がいっぱいあります。 親子で戦争について語り合う団らんが、みんなが人を殺さぬ、 また殺されぬための抑止力になります。主権者はまだ、 みんななんですから。海外逃亡はその後だ。
来夏の参院選は勝負どころ。 共産党はこのところ独自路線を歩んでいますが、 デモ隊もどきに意味なきプラカードを国会でふりかざす民主党を先頭に野 党が軒並みだらしないとはいえ、 独裁制の日本を変えるために選挙協力は必須です。 官僚化した共産党では世の中は変えられない。 そういえば上田耕一郎は、 社共共闘を模索した野党融和主義者でした。
鬼の目玉を奪い返す。 松谷みよ子の作品に育てられた元こどもの一人として、 彼女への供養としたい。
そして、今のこどもたちがこれからも幸せでありますように、大人たちには彼らが松谷作品を読んで、戦争を知る機会をつくってあげて ほしいのです。