自民党がテレビ在京キー局に「公平中立な」選挙報道を求める要望書を出していたことがわかりました。
またかい。1992年にも、投票前に選挙情勢報道をしたメディアの責任者に禁固2年以下、罰金10万円以下を課す公職選挙法改正案を出そうとした、憲法21条(知る権利)の中身も知らない連中です。こんな傍若無人をやってもおかしくはない。
情けないのは、「こんなの来ました」と、自ら公表せずふたをしようとしたテレビ局。報道部門など廃止してしまえ。中でもNHKが重篤です。この期に及んで、要望書の存在も含めて「お答えしない」とは何事か。
現会長就任以来、その御用報道ぶりが目に余る公共放送。国営でありながら政府との距離を置く英BBCとNHKを比較する人が時々いますが、それは無理です。並べるなら米共和党べったりのFOXニュースでしょ。
NHKは独立性が保障されない政府系放送機構としてしか存在し得ないのか。今日は、かつて「天皇」と呼ばれた独裁的会長前田義徳が、NHK予算をめぐり、広瀬正雄郵政相と国会でやり合った事例を拾ってみます。やり取りから、双方ともに傲岸不遜、鼻持ちならぬ人格で、気分が悪くなりますが、放送局側がお上に自主性を主張した稀有な例でしょう。
1972年3月10日付の朝日新聞「NHK赤字予算で口論」から引用します。仮名遣いは、おじさんが現代風に改めています。
(前略)ことの起こりは、NHKが17年ぶりに8億2千万円の赤字予算を計上したことに対し、郵政省は経費の節約その他の合理化でこの赤字を解消すべきだ、との趣旨の異例の意見書を添えて、NHK予算を国会に提出したことにある。
この予算は9日から衆院逓信委員会で実質審議にはいったが、阿部未喜男氏(社会)の質問に対し、前田会長は「私は郵政相の意見書には批判的だ。実行段階で赤字をゼロにせよといっても、公共料金の値上げその他いろいろな支出増があり、安易に赤字を出したのではない。具体的な経営努力の指摘もなく、ムード的に困るというのだとしたら、コッケイ千万だ」と感情的な面持ちで答えた。
郵政相もムッとした顔で立ち上がり「意見書は大臣のものとはいえ、自民党の各機関の了承を得たもので、政府ばかりでなく、自民党をも侮辱することになる。非常に遺憾だ」とやり返した。
これに先立ち「NHKの給与は高すぎる」との林義郎氏(自民)の質問に対しても、前田会長は「NHKは百%知能労働者。総支出の中の人件費の割合は32-33%で、郵政省の80%には遠く及ばない」と答えたのに対し、郵政相は「郵便と放送では事業の本質が違う。一緒にはならぬ」よ反論するなど、両者の言い分は初めから波乱含みだった。
郵政相はこのあとの記者会見でも「最近の前田氏は余りにワンマンになりすぎ」と批判しているが、郵政省内では、こんどのNHKの赤字計上は将来の受信料値上げの“伏線”で、そのまま安易には認めがたい、との空気が強い。これに対しNHK側も、政府に“自主性”を侵されたくない、との反発が根強い。(引用おしまい)
「NHKは百%知能労働者」と言い放つ前田会長の貴族意識がいやらしいですね。頭脳労働だろうと肉体労働だろうと、赤字は赤字。お金を払っている国民への配慮などカケラもありません。
一方の広瀬も、頭の中には政府自民党の面子と統治者気分しかない。NHKの経営に「みなさまのNHK」の前提なく、王様と貴族による宮廷闘争だったことが良くわかります。
前田は後日、「コッケイ千万」発言を取り消します。前田時代のNHKは、渋谷への移転、衛星放送の推進など、自民党のバックアップがなければ難しい事業にケリをつけていますから、裏で何があったか知れません。しかし、前田が局への政治の介入を防ごうとした点は評価できるでしょう。
籾井勝人・現会長は王様の隷臣。「コッケイ千万」など言うはずもありません。公共放送の公共性は、すっかり昔語りになりました。NHKはだれのものか? おじさんは、政府自民党のものだと思ってテレビを見ています。そろそろ受診料という呼び名もやめて、「政治献金」にした方がわかりやすいですが、いかがでしょう。