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2014/12/23

オートバイ考・ホンダ「ケンカ上等の優等生」

オートバイの会社のお話です。英語だと「motorcycle」ですが、世界を席捲するシェアと品質を誇りながら、垢抜けない、オートバイという日本語で呼ぶべき、土着的製品を出してくるのは、極東の島の土壌に根を張る企業の業なのでしょうか。
若いころ、おじさんは北海道をオートバイで旅したことがあります。ミツバチ族デビューですね。
日本中がバブり倒していた時代です。全身に風防をまとった、本来ならサーキットだけで使うようなレーサーレプリカ全盛期。片岡義男さんの小説に影響されたのか、女の子たちまでが革ツナギに「YOSHIKO」なんてレザーネームを縫い込んで、ホンダやヤマハのレーサーにまたがり、北の大地をカッ飛んでいました。スズキ乗りのギャルは見かけなかったな。鈴木さんのごひいきは野郎ばっかし。
おじさんの当時の愛車は「ホンダ・レブル・スペシャル」。233ccという中途半端な排気量のビジネス車用空冷並列2気筒エンジンを、ハーレー・ダビッドソンのソフテイルまがいのメリケン外装に乗っけた真っ白けの珍車です。そこにシリンダーヘッドカバーやらヘッドライトリムやら、果てはメーカーロゴまであちこちに安っぽい金メッキやゴールドデカールが施された、田舎の成金趣味満載の単車でした。友人が付けたアダ名が「走るチンドン屋」。ちっともうれしくない限定車でした。
なぜこんなのに乗ってたのかと言えば、ほとんど距離の出ていない中古車が激安だったから。新車で買った人が、血迷ったことに気づいて早々に手放したんですね。おじさん、まだ若くて貧乏だったからね。
道東の原野を次々にレーサーギャルにブチ抜かれつつ、従順にトコトコ回り続ける、全くの面白味なき黄金のエンジン。リッター30キロを超える燃費だけは、異常に良かった記憶があります。そこだけ技術のホンダの面目躍如。
GL400カスタムってのも一時期乗ってました。でかい車体に、チェーンじゃなくてクルマと同じシャフト駆動のヘビー級取り回し最悪車。股ぐらの前に突き出た縦置き2気筒エンジンが、無意味にやたら高回転まで回るんですが、なんちゃってアメリカンスタイルには、デザイン上絶対にマッチングさせてはならないコムスターホイールって難物が引っ付いていてデザインを破壊しています。ホンダが「スペシャル」や「カスタム」って名前付けたら、ダサくなるお約束は何なの? 「さあ、カスタムだあ!」と、秀才の技術屋さんが頭の中でスタイリングを暴走させるの?
技術的にソツのない「優等生」と揶揄されるホンダですが、実は結構なケンカ好き。1980年代初頭のヤマハとの「HY戦争」は有名です。
ホンダが四輪に傾注している間に市場を奪ってしまえ、とヤマハが宣戦布告。採算度外視の叩き売り合戦と大量在庫を抱えて、二輪車業界全体が疲弊した企業間競争の悪例として記憶されています。
この一戦は結局、体力に劣るヤマハが降伏したのですが、両社の社長会談が開かれ、手打ち式の直後、ホンダは世間体を気にせず、ヤマハを裁判所に訴えました。
1983年3月29日付の朝日新聞「本田、ヤマハを提訴 特許侵害と主張」から引用します。
本田技研工業(河島喜好社長)は28日、ヤマハ発動機(小池久雄社長)が同社の特許を侵害しているとして、東京地裁に提訴した。ヤマハが輸出用三輪バギー車に本田の特許を無断使用しているというもので、①ヤマハ・トライモト(YTM200の製造を中止し②損害賠償金1億円を支払え、というもの。
(中略)わが国から年間約40万台を輸出している。うち本田の「ATC」が35万台で、残り約5万台がヤマハの「YTM」などの製品。
本田によると、今回問題になったのは、運転者が走行時に足を置くステップ部分。走行の安定性や旋回などをスムーズにするため、本田は長めのステップを採用しており、これで国内特許を取っている。ところが、ヤマハは国内でいったん短いステップで生産して出荷、現地で長いステップに取り換えて販売しているというもの。本田はこれまでに数回文書でヤマハに抗議したが何の回答もなく、提訴に踏み切ったという。
これに対し、ヤマハは「本田からの問い合わせについて調査している段階だが、本田の特許を侵害しているとは思っていない」(荒田忠典常務)としている。(引用おしまい)
三輪バギーは、今でいうトライクです。この争い、ヤマハが折れて、1億円と以後の販売車両分のパテント使用料をホンダに支払うことで和解しますが、二輪車産業という狭い業界で、金持ちケンカせずの逆を行くホンダの二輪熱には恐ろしいものを感じます。
その本気が「スペシャル」や「カスタム」に向けられた時、他社にないものを、と変なベクトルで全力創造してしまうクセは改めていただきたいものです。
追記:北海道旅行中、レブルのフロントブレーキパッドが擦り切れました。駆け込んだ札幌のホンダの部品倉庫の職員さんが、部品代だけ取って、パッド交換作業までしてくれました。ビンボーな若者は感激したのでした。
次回はヤマハ