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2014/11/26

「マッサン」、つまらなさの秘密

NHK大阪放送局・朝の連続テレビ小説次回作の制作発表をさせていただきます。
タイトルは「新・ぴあの」。ヤマハでピアノ製造の技術を学び独立した河合楽器製造所の創業者、河合小市氏がモデルです。
良い国産ピアノを生み出すために闘った主人公の人生を描きます。ヤマハの創始者・山葉寅楠氏も登場します。お楽しみに!

上記の架空発表のようなテレビドラマが成立するはずがありませんね。一方を持ち上げれば、もう片方に角が立つ。ライバル会社同士は、自社製品と企業イメージに敏感です。
「マッサン」には、ニッカとサントリー両社の創業者がモデルである人物が登場しています。ニッカウ㐄スキーの親会社アサヒグループの2013年の売上高総額が1兆7142億円、サントリーのそれは2兆402億円。食品大手の両雄は、視聴者に会社を色メガネで見てほしくないでしょう。
結果、現在はサントリー創業者とおぼしき人物を持ち上げておいて、ニッカの方はつまらないダメ人間に描く。ニッカが独立したら、おそらくサントリーにはご退場願う折衷策が取られるような気がします。用済みの住吉酒造を、居酒屋でグチるのみの女子社員除いて全員、作品から解雇したやり口ですね。要は企画自体が無茶でした。
高度成長が成熟期を迎えた1967年、大阪のサントリーは、ニッカの牙城、関東へ本格的に討って出ます。両社の全面戦争前夜の1967年1月19日付の朝日新聞「サントリー、関東へ進出」から引用します。年号は昭和です。
洋酒メーカーのサントリー(本社大阪市、資本金20億円、佐治敬三社長)は18日、神奈川県津久井郡藤野町に原酒年産1万キロリットルの工場を新設すると発表した。洋酒業界では、サントリーの関東進出を重視、さっそく対策を練りはじめたが、監督官庁の国税庁でも競争が一段と激しくなるおそれがあるとして、過当競争の自粛を望んでいる。
サントリーの発表によると、ウイスキーの消費が伸び、現在の山崎工場(大阪府)の原酒年産1万キロリットルでは足りなくなったが、同工場に増設の余地がなく、また販売政策上、関東に足場を築きたいと考え、水質がよく、交通が便利な藤野町を選んだという。敷地は10万平方メートル、土地代を別として総工費15億円。来年着工、44年に完成する計画で、これが完成すれば、同社の原酒製造能力は一挙に2倍になる勘定。
ウイスキーは生活水準の向上と、生活様式の洋風化により、需要がふえるのにつれて、生産がふえている。国税庁の調べによると、37年度の国産ウイスキーの出荷量は、5万1千キロリットルだったが、その後順調にふえ、40年度には不景気で麦酒と清酒は減ったのに、ウイスキーは前年より18%増の6万5千キロリットルを記録した。景気が回復した41年度は10月までで、前年同月に比べ44%もふえ、とくに1000円の一級ウイスキーは75%も急増している。
しかし競争もはじめのハデな宣伝合戦から、一昨年のハイニッカとサントリーレッドの500円ウイスキー競争、去年のさらにはげしい1000円ウイスキー“戦争”と、激化の一方。国税庁では、サントリーの関東進出で、この競争がいよいよ激化するとみており、品質向上競争はともかく、販売面で過当競争しないよう業界の自粛を強く望んでいる。
一方、北海道に原酒工場をもち、“関東に強い”といわれるニッカウヰスキー(本社東京都、資本金2億4千万円、竹鶴政孝社長)では「最近、高級品がよく売れるので、各社とも原酒の混入率をふやしており、サントリーも当然、原酒工場を新設すると予想していた」(弥谷醇平副社長)といっているが、競争が一段と激しくなるのは覚悟している模様。同社でも洋酒の輸入自由化対策として、北海道内に原酒工場の増設をひそかに計画しているといわれる。(引用おしまい)
現況だけでも天秤を量るのが大変なのに、過去の因縁まで確認したら恐ろしくて、ニッカとサントリーのドラマなんて投げ出したくなります。この記事を読むだけで、目端が利くプロデューサーだったら、「マッサン」は企画段階で真っ先に捨てます。
1960年代の両社のシェア戦争を描ければ面白いけれど、まあ無理。
食品飲料大手2社のご機嫌を伺ったあげく、肝心の視聴者を敵に回してしまった「マッサン」。すべてが泥酔していますが、公共放送は早く正気に返って、次作「まれ」は昨今まれな傑作にしてもらいたいものです。