当時の通称は「夢の超特急」。特急を軽くしのぐ「超特急」である上、そこに形容詞「夢の」が付いてるんですよ。男の子がコーフンしないはずがない。
ピュアだった小学生が、永遠に続くかと思われた日本の繁栄を疑いもせず、童謡「はしれ超特急」を「びゅわーん、びゅわーん」と口ずさみながら、開いた自動ドアに駆け込んだのを覚えています。
当時、「のぞみ」などあるわけもなく、最速グレードは「ひかり」です。その名が決まった際の経緯を、1964年7月20日付読売新聞「新幹線の愛称決まる」から引用します。
一般から募集していた“夢の超特急”東海道新幹線列車の愛称が、7日の国鉄理事会で正式に決まった。
東京ー大阪間を3時間(開業当初は4時間)で結ぶ超特急は「ひかり」4時間(同5時間)の特急は「こだま」で、列車番号は、下りが奇数、上りが偶数で表され、原則として発車順に超特急は1ー99、特急は100ー200台の番号を使用する。たとえば「ひかり1号」は下り超特急一番列車、「ひかり2号」は同上り一番列車、「こだま101号」は下り特急一番列車、「こだま102号」は同上り一番列車を表すことになる。「ひかり」の愛称は現在、九州循環急行列車が使っているが、これは変更される。
こんどの愛称募集は、インド、韓国、台湾など外国からも数多く寄せられ、総計55万8882通に達した。33年に、現在の特急「こだま」の愛称を公募したさいは約18万通だった。
「ひかり」の応募数は、もちろん第1位で1万9845、「こだま」は、10位の8215通だったが、国鉄では「表現がわかりやすく、高速をシンボライズする“ひかり”にはペアを組む意味で“こだま”が最適と考えて選んだ」といっている。
応募愛称は“宇宙時代”を反映して宇宙や天体現象が目についたが、ベスト・テンはつぎのとおり。
1ひかり2はやぶさ3いなづま4はやて5富士6流星7あかつき8さくら9日本10こだま(引用おしまい)
候補を見ると、旧日本軍の艦艇、飛行機との同名が多いなあ。中韓からクレームが付くような羽目にならずに良かったね。夢の超特急「日本」も、恥ずかしくって乗れません。仮に北米大陸横断特急が造られ、名前が「The U.S.A.」なんかだったら米国人も嫌だよね。テキサス辺りは違うか。まあ、国鉄にしては賢明な判断でした。
記事によれば「ひかり」の名前は、九州の急行からぶんどってきたわけです。九州の人たちは、国の栄誉とばかりに喜んで「ひかり」を差し出したのでしょうか。それとも、慣れ親しんできたその名が、まったくの別物になることに、怒りや愛惜を覚えたのですか。
中央の都合で地方が犠牲になる、よくある構造です。当時の鉄ちゃんの声を聞いてみたい気もします。