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2020/01/05

ドナルド・トランプの戦争が日本経済を壊す

オリンピックより戦争だ

戦争だ、戦争だ。もはや戦後ではない。わずかばかり残された短い戦前だ。
なぜかと言えば、大日本帝国の元首が戦争をお望みである。ドナルド・J・トランプ大統領閣下が戦争をご所望なのだ。戦争するしかないじゃないですか、と有名な国会議員もほたえておる。戦争だ、戦争だ。
なにしろ大統領選挙の年だ。戦争するしかないじゃないですか! ウクライナ疑惑から有権者の関心をそらさなきゃならぬ。戦争するしかないじゃないですか! 2004年の大統領選挙の前年に、「大量破壊兵器がある」などと満天下に大ウソついて、なぜイラク戦争始めたのか? 支持率ダダ下がりだった愚鈍な石油利権一族のジョージ・W・ブッシュ陣営が、「急流渡河の途中で馬を乗り換えるな(Don’t swap horses in midstream.)」なんて慣用句吐き散らかして選挙キャンペーンやって勝ったのか。政府が急流渡河の状況をこしらえたおかげである。戦争するしかないじゃないですか!
1964年の大統領選挙直前に、北ベトナムによる米軍への攻撃を米政府がねつ造した「トンキン湾事件」によって現職が圧勝した事例も忘れるわけにいくまい。選挙のためには、戦争するしかないじゃないですか! よろしい、ならば戦争だ!
開戦スケジュールは、民主・共和両党の全国大会に合わせて、7月から遅くとも8月には敵味方にバタバタ死人が出る激戦になっていなければならん。
東京オリンピック真っただ中? そんなもん、知ったことか。大統領選の方がなんぼ大事か。大切なのは戦争じゃ。大勢の選手が殺害されたミュンヘン大会みたいに凄惨な五輪になっても、戦争中なんだからいたしかたあるまい。
いっそ五輪など急場となれば中止してしまえば良い。文句を垂れる与党の国会議員には、ラスベガスあたりのカジノ運営企業がなんぼかカネを渡しておけ。贈収賄がバレても、雲隠れすれば刑事責任すら問われぬ国じゃ。戦争するしかないじゃないですか!

令和の石油危機

えてして戦争というものは、行き詰まった政官財の利害が一致して端緒が開かれるものですから、その多くは不況下に始められてきました。今回トランプがイランを相手に始めようとしている戦争は、記録的な好景気にかかわらず、目的が大統領選挙のみですから、企業経営者たちにとっては、さぞ迷惑千万でしょう。トランプが世界的な好況を破壊することになります。外務省のウェブサイトによれば、イランは世界第4位の原油産出国。戦争になれば、大規模な環境破壊を伴う石油インフラの破壊は免れないので、グローバル経済の瓦解は必至。世界一の産油国アメリカは当事者だから、世界の石油不足分を輸出するはずがありません。2位のサウジアラビア、3位のロシアは、なんだかんだとこの戦争に介入してくるでしょう。どこから油買うのよ? 来るよ、令和のオイルショック。

1966年の輸出産業打撃

今日は、かつてアメリカのベトナム戦争介入が日本のオートバイ輸出産業に損害を与えたお話から、大企業がこうむる戦争リスクについて考えます。
「二輪車産業グローバル化の軌跡」(出水力著、日本経済評論社)などの資料によれば、1959年に米国へ本格進出したホンダは、排気量50ccのスーパーカブを皮切りに、次第に排気量を拡大した商品を投入。市場を席巻します。
ヤマハ発動機はピアノ販売網を北米進出の橋頭堡にして参戦。浜松の先人ホンダのやり方の観察・模倣を常とするフォロワー鈴木自工も現地法人を立ち上げ、新進気鋭の若き取締役鈴木修氏(現・スズキ会長)を米国に送り込みます。
最後発のカワサキに至っては、慢性的赤字からの脱却を掲げて、それまで造ったことのない600cc超の大型車を出たとこ勝負とばかりに、いきなりマーケットに投げ込みました。強烈な振動によって脱落するパーツがアメリカの大地に撒き散らされ、エンジンから漏れ流れるオイルが広大な大陸の路面を濡らして、部品脱落車両どころかディーラー網までバラバラにしかねないトンデモ商品だと、社内で問題となったそうです。
カワサキの後先考えない鼻息の荒さからも分かるように、そのころは4社ともイケイケだったわけですが、熱を帯びるこのオートバイ商戦に冷水をぶっかけたのは、リンドン・ジョンソン米大統領その人でした。
1964年のトンキン湾事件以降、米国はベトナム戦争の泥沼へ本格的に足を突っ込みました。当時のアメリカは徴兵制。二輪車の主購買層である多くの若者が続々と、東南アジアのジャングルに送られました。戦争に行く人間はレジャーバイクなんて買わなくなるし、死ぬ確率が高い兵士相手に、未回収リスクの高いローンを組む奇特な金貸しはいません。日本の輸出産業の花形だったバイク業界はたちまち斜陽となりました。
1966年6月16日付の朝日新聞「オートバイ業界にショック 対米輸出、大きく減る」から引用します。年号は昭和です。
米国ではいまベトナム派遣の兵力を増強するため、学生の徴兵延期資格テストを実施するなど徴兵強化にやっきだが、徴兵の対象となる米国の若者をお得意先にしている日本のオートバイは、このところ対米輸出がガタ減り。“あすをも知らぬ命”というわけで、需要が急に減ったうえ、これらの若者を対象にした市中金融機関の貸付け態度がにわかにしぶくなったのが原因。日本のオートバイ・メーカーが改めてベトナム情勢に強い関心をもちはじめる、といった奇妙な波紋を起している。
昨年米国向けだけで33万台のオートバイを輸出した本田技研は、今年は当初45万台と約5割増の強気な輸出見通しをたてていた。ところが4月になって、注文が急減、最近では「昨年なみにとどまりそうだ」とあわてて生産計画を修正した。同社は、5年前ベルギーに設立したような組立て工場を米国にも設立する計画を進めていたが、最近になってこの準備も一時中止。
日本小型自動車工業会(小石雄治理事長)の調べでも、1、2月に月9万台、という好調なペースでスタートした今年の対米輸出は3月に7万台、4月に5万台と減ってきている。
なにしろ40年度の生産の約半分が輸出され、輸出のうちの7割は米国というぐあいに、米国の若者は日本のメーカーにとっては大切なお客さま。伸び続けてきた二輪車輸出は突然大きなカベにぶつかった形である。(引用おしまい)
この一件によって、右肩上がりに業績を伸ばしてきたホンダは赤字に転落、南ベトナム政府軍に原付バイクを販売する大口契約で糊口をしのぎます。商品の軍事目的使用に嫌悪感を示す企業イメージがあるホンダですが、背に腹は変えられない時期の黒歴史となりました(ホンダのウェブサイトでは、この件をいい話風に紹介しています)。
かつて日本の輸出産業がつぶしかけられたジョンソン大統領のトンキン湾事件は、ドナルド・トランプのイラン革命防衛隊司令官殺害にあたります。
良心のある経営を行っていると自負される企業におかれては、なにとぞトランプがやらかそうとしている戦争の制止・回避に尽力いただきたいとお願い申し上げます。それが、ひいては会社・従業員・株主、そして顧客を守る行動となります。
逆に放っておくと、大統領発の大恐慌に会社をつぶされるかも。後世、‘Trumpanic’とか‘Donaldepression’などの名で記憶されるであろう、無能なボンクラが生み出す世界経済危機がやってきます。戦争を防ぐことで、傷口を浅くしておきましょう。
反戦叫ぶしかないじゃないですか?