コピー禁止

2019/09/08

TBSが進める言論の不自由

オウム事件を忘れたか

TBSテレビが自社制作のドキュメンタリーバラエティ「消えた天才」で、映像の恣意的加工を行ったと発表、以後の放送は休止するんだそうです。スポーツのプレイ場面を早回しすることで、紹介対象人物の身体能力を過大に見せる手法が番組内で常態化していたとのことです。TBSは過去にやらかしたオウム真理教サブリミナル事件なんて、すっかり忘却してしまったのでしょうね。
これは、同局がアニメ番組や報道番組内でオウムの教団代表の画像を一瞬はさみ込む手法を乱発した問題で、視聴者をミスリードする危険等の問題がじゃっ起され、各界から非難ごうごう、電波行政を管轄する郵政省からも厳重注意を受けました。教団による坂本堤弁護士一家殺害事件を助長したとされるビデオ問題と合わせ、ワイドショー制作を長期間やめるなど、放送局の信用を著しく毀損する一因となった、平成放送史に残る大事件です。元号が令和に変わったことだし、そんな黒歴史、もうどうでもいいってか?
7日放送のTBS「炎の体育会TV」なる番組中、競泳自由形の日本記録保持者と小学生を競わせる企画で解説者が「小学生はひじを曲げて水をかいているが、アスリートは腕を伸ばしているのが記録の差につながった」ような指摘をしていましたけど、全国の指導者、親御さんが右へならえして子供たちの泳法を変更する実害が出ないか心配です。成長過程なりの泳ぎ方もあるでしょうし、選手の個性を考慮したコーチングもあるでしょうに。「天才」「体育会」と、東京オリンピックを控えて、スポーツバラエティは調子に乗っています。幸か不幸か、テレビの無謬性(むびゅうせい)を信じている視聴者はいまだたくさん存在しますからね。倫理観の欠如が新たなトラブルを生まなきゃいいのですが。

映像加工のワナ

めざましい映像編集技術の進歩には目を見張ります。Avid、Adobeといった会社からリリースされているコンピューターソフトのおかげで、プロの映像作家のみならずアマチュアの高水準なネット投稿映像作品が量産されています。
例えばPremiereってソフトで動画いじって、Premiereと連携させたPhotoshopで文字入れる作業はチョー簡単。おかげで茶の間には、NHK・民放関係なく、無駄なテロップにまみれた汚いゴミ映像がだらだらだらだら送られてきます。赤の他人が作ったネットからの拝借犬猫動画にまで、勝手にテロップや効果音入れてテレビ放送。倫理・道徳感に加えて、著作権意識もプロのプライドもありゃしない。
映像の加工といえば、近年やたらめったら流行しているのが、古い歴史的ニュース映像のカラー化です。先んじて始めた欧米を追いかけるがごとく日本も、特にNHKが率先して進めている模様。
最近よく聞くAI技術で、モノクロ画面に適切な色を着けるというヤツで、静止画(写真)においても、首都大学東京などの学術機関が進めているようです(毎日新聞の参照記事)。
米中ロなどが開発を進めるAI兵器が、人間の意思の介在なく殺人を行った時、人命を奪う責任の所在が不明であると同様、映像加工にも歴史に介入する責任がだれにあるのか、ガイドラインや道徳的規制はあるのか考えなければいけませんね。
研究と実用との間には強固な倫理の壁が必要です。国の政府や情報機関、特定の思想に凝り固まった団体などによって、技術的には容易に史料が思う方向に改ざんされ得る時代を迎え、今回のTBSのような感覚で映像の管理・公開がなされれば、すべての映像資料の信用性は地に落ちます。

権力は介入する

モノクロ映像の“カラー化先進国”アメリカ合衆国では、30年以上前から白黒映画に着色、ビデオ販売する商売が一般化していました。御多分にもれずコンピューターの「AI技術による正確な再現」を錦の御旗としたソフト販売会社に怒ったミュージカルのスーパースターやアカデミー賞受賞監督ら銀幕の守護者たちが、連邦議会で熱弁を振るいました。
1987年5月13日付の毎日新聞夕刊「白黒映画のカラー化 米上院で“白黒論争”」から引用します。
【ワシントン12日=小泉特派員】白黒映画をカラー化するのは是か非か--を問う米上院の法務委員会・「テクノロジーと法律」小委員会の公聴会が12日開かれ、往年の名女優ジンジャー・ロジャースさんや映画監督兼俳優のウディ・アレン氏らが「勝手なカラー化は許せない」と次々に反対を唱えた。アカデミー賞授賞式にも出席しないほどふだんマスコミ嫌いの人気監督アレン氏が証言するとあって、狭い委員会室は報道陣や傍聴人で超満員の熱気となった。
白黒映画のカラー化は最新のコンピューター技術を使って、往年の白黒映画に色彩を着けてしまうもので昨年から急に企業化され始めた。ほとんどビデオ作品として売られているが、映画監督や俳優たちから「原作をぶち壊すもの」と強い抗議が起きていた。
アレン氏は、映画の中そのままの少々カン高い早口で、「カラー化はモラルの問題。我々の欲望社会の人工的シンボルだ」と熱弁をふるい、ロジャースさんも自分の出演作品のカラー化は「頭にペンキを塗られたように不愉快」と避難した。そのほか、ミロス・フォアマン、シドニー・ポラック氏など第一線の監督たちが次々と反対を唱えた。
これに対し、カラー化ビデオを製作するロブ・ワード氏らは、「非難は誤解だ。カラー化は原作を損なっていない。視聴者は簡単にだまされるものではない」などと反論した。
民主党大統領候補リチャード・ゲッパート下院議員もこの問題に関心を示し、「勝手にカラー化が出来ないよう著作権法を拡大する検討をしたい」と語った。(引用おしまい)
売れさえすればモラルは関係ないと言わんばかりの資本主義信望者に、妥協なき表現者の誇りがぶつけられた米議会のエポックでした。
売れさえすれば何をしてもいい? この理屈は週刊ポストの嫌韓特集と同じですね。視聴率が上げるために2割増しの早回し映像を放送するTBSも同じ穴に暮らすムジナか。
インパクトを求めた末の虚偽映像で視聴率獲得に猛進して行き過ぎたその先には何が待っているのでしょう。
権力による規制・締め付けです。引用した記事の最後に出てくる民主党のゲッパート(Richard Gephardt)議員は、貿易赤字対象国である日本叩きを主張してきた保護貿易主義者で、敵をつくって騒ぐタイプのポピュリストでした。映画のカラー化問題でも規制を打ち出しての人気取りを企んだようです。言論・表現の自由は、こうした資本的動機の暴走によっても奪われていきます。
平成の世でサブリミナル映像加工をやらかして行政の介入を招いたTBSテレビは、令和元年早々にも政府からお目玉と規制をもらって萎縮していくのでしょうか。「韓国人女性を暴行しろ」と示唆したコメンテーター、韓国人女性に暴言を吐くタレントが闊歩する系列局制作のワイドショーを流しておいて、だんまりを決め込むTBS。昨年発覚した、警察癒着番組での映像を鹿児島県警が没収した問題で視聴者に何もことわれなかった一件も、企業ガバナンスの薬にならなかったようです。
TBSテレビにおかれましては、くれぐれも規制強化でよその放送局、並びに一般日本国民を、自滅の言論規制・統制に巻き込まないでいただきたいと、くれぐれもお願い申し上げます。