コピー禁止

2016/04/22

高市早苗総務相に求められる国際発信力

国際連合人権理事会ごときが、大日本帝国に対する“報道の自由”調査とは笑止。リットン調査団以来の迷惑な外圧だ。国連など脱退してしまえ。
日本ほどマスコミを大事にしている国家は他に例を見ぬぞよ。世界に冠たる記者クラブ制度を見よ。行政が何事においてもプリントして説明、詳細なる発表に努めておる。取材などせずとも、役所が提供する情報サービスのみによって、広範なニュースを国民に届けることができるではないか。国体に都合の悪い特ダネなど書く必要はない。第一、特ダネには超過勤務が付き物ではないか。社会の木鐸(ぼくたく)たる報道機関が、社員に労働基準法違反を犯させるわけにはいくまい。
それゆえ2016年の帝国では、“スッパ抜き”などという、過去の悪弊撲滅に成功しておる。かつて「特ダネ記者」「トップ屋」と名乗った悪人どもは駆逐された。記者クラブさえあれば、秘密保護法などこしらえるまでもなかったわ。
政府は報道機関に十分な説明を尽くしておる。多忙を極める総理大臣はじめ政権幹部が、数多くの“ジャーナリスト”たちに時間を割いて会食を重ねているではないか。新聞・テレビの社長連も大喜びで尻尾を振っておる。我が国が誇る美しい和の精神世界を解さぬ、欧米の合理主義に毒されたリットン調査団もどきの讒言(ざんげん)に耳を貸す必要があろうか。閣僚がテレビの電波を止めると言ったところで、電波のトップが面と向かって文句を垂れた話など聞いたこともないのう。
国論の統一に志を同じゅうする近隣国家と手を携え、国際社会の圧力に抗するのだ。日中朝3国停波協定を締結せよ。国連など脱退してしまえ。
松岡洋右を呼べ。国連で脱退の旨演説せしめよ。大日本帝国は、まさに人権の十字架に縛られたキリストであると、あの名演説を再現するのだ。
何ぃ、松岡は死んだ? それなら代わりの適任者を出せ。そうだ、高市なんとかいう総務大臣が良い。あれはブレないからな。公共の電波を国が流すの止めるのと、なかなか口にできるものではないわ。国際的常識や人権の普遍的価値など逐一気にしていたら、国家の大事は成せぬ。国連で停波演説だ!

報道の状況調査に来日したデビッド・ケイ・カリフォルニア大アーバイン校教授の熱心な面会要請を、高市早苗総務相が拒絶しました。国会の会期中を理由に断ったそうです。大臣って忙しいんですね。例大祭真っ盛りの靖国神社参拝には国会に関係なく行けるのに。実に残念です。
2月の衆議院予算委員会で二度にわたり言及した「停波の実行」。後日、発言を撤回する必要のない旨も改めて答弁していますから、言い間違い、うっかり発言の類ではありません。政治家としての信念なんです。何を置いてもケイ氏と面会して、自由主義国家における“暴走メディア規制”の必要性を国際社会に訴えるべきでした。
いったん国連を納得させられたら、権威に弱い国民なんてちょろいもんです。夏の参院選、または衆参ダブル選の争点を「停波」に据えて闘いましょう。マスコミ規制公約の前では、ただでさえだらしない野党共闘など赤子の手をひねるようにたたきつぶせましょうや。
高市大臣に限らず、日本の政治家の海外への政策発信力が極端に弱いのはなぜでしょう。最近で思い出すのは、「アベノミクスを買え」とかいう首相の寝言ぐらい。その寝言だって、近ごろはすっかりメッキがはげてだれも相手にしなくなりました。以前記事にした敗戦コンプレックスが、いまだに政治家の呪縛となっているのでしょうか。海外メディアに厚い記者クラブの門戸を閉じ続けているのも、外国人へのコンプレックスに起因しているのかもしれません。
日本以外の自由主義国家の閣僚には、外国人記者との交流を積極的に図る人たちがいます。例えば英国。
1970年代のイギリスは、競争の妨げとなる階級制度、自動車製造など重要産業の国有化、勤労意欲の低下等から、英国病と呼ばれる深刻な経済停滞に侵されていました。持ち前のブラックユーモアとともに政権批判を繰り広げる国内メディアはもちろん、ロンドン駐在の海外の新聞社も経済への無策に攻撃の手を緩めませんでした。ジェイムズ・キャラハン内閣の外務大臣デビッド・オーエンは、外国メディアに自ら“公正な報道”を訴えました。
1979年2月16日付の毎日新聞「アンテナ 英国の悪口もうやめて」(黒岩特派員)から引用します。
「英国の悪口を言うのはもういい加減にしてくれ」ーーこのほど行われたロンドン在住外国人記者団との昼食会でオーエン外相がたまりかねたように訴えた。この1カ月、英国紙ばかりか、外国紙かが英国のこととなるとストの話のオンパレードなのにネを上げたらしい。「それより英国のいいところを見てくれ」と、自国の宣伝を仕事とする英外相は英国のイメージ低下防止に必死。オーエン外相をいらだたせたのは「英国の憂うつ、英国の暗い運命」についてばかりマスコミが書きすぎた点にある。
もっとも、同外相は外国人記者団に訴えるに当たって、反省の態度も示した。「大英帝国時代わが国の産業が植民地におんぶしていたことは自明である。その代価を支払わざるをえなかった。製造業の国として産業革命を起こしたわが国が、戦後、製造業に投資し、製品を売らねばならず、それ以外に再生の足がかりがないことはわかっていた。だが、経済問題の根は深く、難しい」ーー。
この自己批判の後の口調は一転、「だが、だれも英国から逃げ出そうとしないし、英国へ来たがっている、それを忘れないでほしい。英国にもいいところがある。それをジャーナリストは見落としている」という。「フリートストリート(新聞街)にだけいるのでなく、地方に出て国をよく見てほしい」ーー。現場をよく見てほしいとの呼びかけは英国の新聞にだけ頼りがちな外国特派員にやや耳の痛い話だ。
英国のいい点の例として同外相は指摘する。「74年ー5年のインフレが27%だったのを76年から20%、15%に、そしていまや8%にまで下げた。3年間でこれほどインフレ率を下げた国がどこにあるだろうか。国民は生活水準を下げてまでそれに耐えたのだ」。しかしそれだからこそ国民は政府に反発していまストをしているのだが……。
(中略)暗さを目の前にして「暗さより明るさを見よ」とオーエン外相の訴え、果たしてきき目があるかどうかーー。(引用おしまい)
コメディドラマの1シーンのような哄笑を呼ぶオーエンの一策。とはいえ、海外の報道陣に大英帝国の美点を伝えるよう、肉声をもって訴えたイギリス人の試みは、国連の調査員相手にだんまりを決め込む日本人より、よほど政治家の責任感を感じさせられるノーブレス・オブリージュ(社会的責任を果たす道徳観)の実践ではありませんか。
公共の電波を止めるノーブレス・オブリージュとは何か。ケイ教授はじめ世界に向かって発信する姿勢が、高市さんに求められます。