シベリア出兵はなかった？
結論を先に言うと、出さなきゃよかったんですよ、こんなヨタ。我田引水と牽強付会な膨大な言葉の無駄遣いです。安倍首相の戦後70年談話のこと。無意味どころか、外交上のマイナスでしょ。歴史修正まで行われてしまいました。論より証拠。チェックしてみましょう。談話の抜粋引用は首相官邸公式サイトからのコピーによります。
百年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、十九世紀、 アジアにも押し寄せました。その危機感が、日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。（引用おしまい）日清戦争を経て我が国が得た台湾は植民地ではないのでしょうか。日露戦争の末に朝鮮半島をゲットしてますけど。「併合だから植民地ではない」とすり替えたつもりだったんでしょうか。日露戦争の結果が、「植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけ」た根拠がわかりません。ロシアによる日本の植民地化の触手から国家を守った戦いだったんですか？ ちなみにアジア最初の成文憲法は、1876年のオスマントルコのミドハト憲法のはずです。大日本帝国憲法公布より一回り以上古い。トルコ人に失礼じゃないんですかねえ。さらに談話を検証します。
世界を巻き込んだ第一次世界大戦を経て、民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました。この戦争は、一千万人もの戦死者を出す、悲惨な戦争でありました。人々は「平和」を強く願い、国際連盟を創設し、不戦条約を生み出しました。戦争自体を違法化する、新たな国際社会の潮流 が生まれました。日本は足並みなど揃えていません。安倍談話からはシベリア出兵が抜け落ちています。1918年から1922年にかけて、日本が大陸での領土獲得への野心をあらわに兵を送った干渉戦争。1927年から３度にわたる山東出兵もスルーされました。一般に世界恐慌が始まったとされる1929年の株価暴落を、欧米経済の「ブロック化」スタートだと考えると、談話の言う、日本が道を誤る根拠は明らかに矛盾しています。軍閥政治の愚かしさに言及すべきでした。日本軍の存在を無視したまま、戦前の総括などできるはずがありません。続けます。
当初は、日本も足並みを揃えました。しかし、世界恐慌が発生し、欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。その中で日本は、孤立感を深め、外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました。国内の政治システムは、 その歯止めたりえなかった。こうして、日本は、世界の大勢を見失っていきました。（引用おしまい）
満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。満州国は？ 日独伊三国同盟は？ 仏印進駐は？ ノモンハン事件だって、領土紛争ですよね。そして何より日中戦争へのことわりがありません。太平洋戦争は突然わいて出たものではない。乱暴な論理です。乱暴というより、はしょり過ぎだな。次行きましょう。
そして七十年前。日本は、敗戦しました。（引用おしまい）
「我が軍」は悪くない！
先の大戦では、三百万余の同胞の命が失われました。祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦陣に散った方々。終戦後、酷寒の、あるいは灼熱の、遠い異郷の地にあって、飢えや病に苦しみ、亡くなられた方々。広島や長崎での原爆投下、東京をはじめ各都市での爆撃、沖縄における地上戦などによって、たくさんの市井の人々が、無残にも犠牲となりました。（引用おしまい）70年以上前に亡くなった先人たちを「同胞」と呼ぶことに違和感があります。同時代に生きる同国民に使う言葉ではないでしょうか。選民意識を感じます。兵站を軽視して、実際の戦死者を圧倒する餓死・戦病死者を出したのは日本軍。「我が軍」の非人道性を追及することが、安倍さんのいう「同胞」に報いる談話には不可欠でしょう。それに敗戦後しばらくは日本国内でも大勢の飢え死にが発生しています。1945年８月15日をもって戦争はすべて終わり、と断ずる史観はもっての外。次を引きます。
戦火を交えた国々でも、将来ある若者たちの命が、数知れず失われました。中国、東南アジア、太平洋の島々など、戦場となった地域では、戦闘のみならず、食糧難などにより、多くの無辜の民が苦しみ、犠牲となりました。戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません。「従軍慰安婦」という言葉は使いたくないんだろうなあ。英語圏では「性奴隷」が一般的ですから。しかし、これでは抽象的に過ぎて、何を言いたいのか理解できない。一国の総理大臣の言葉が意味不明だというのは、海外に対して恥ずかしいんですよ。「言葉を失い」が、談話全体にかかっています。談話を続けます。
何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。一人ひとりに、それぞれの人生があり、夢があり、愛する家族があった。この当然の事実をかみしめる時、今なお、言葉を失い、ただただ、断腸の念を禁じ得ません。（引用おしまい）
「反植民地」、辺野古で演説を
事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。（引用おしまい）「事変」というのは戦争と同義。宣戦布告があったのなかったのとかで学者が類別するようなもんでしょ。「日中戦争じゃなくて日支事変」という感じのセンスが戦前。「日本軍による事変、侵略、戦争」としないと、文章が「もう二度と用いてはならない」にうまくつながりません。
植民地主義は世界的には衰退しているので、この時代に何を訴えたいのか非常にわかりにくいです。チベットやウイグルといった中国の自治区支配を暗に批判しているのだとうがってみましたが、無理があるなあ。まずは安倍さん自身が、アメリカ様に「プエルトリコを保護領から、市民に選挙権のある州に格上げしなさい」と呼びかけてみよう。沖縄も建前上は自治権のある「県」だけど、植民地みたいな扱いをされていますね。那覇市の国際通りや辺野古で「すべての民族の自決の権利が尊重される世界」を実現させる旨の演説をやって下さい。
我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、 インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。このセンテンスでは、「韓国」ではなく「朝鮮半島」と言い換えた方がいくぶんかマシ。戦前の行為への「痛切な反省と心からのお詫び」であるなら、北朝鮮の民衆も含まれるでしょ。今はならず者国家だけど、戦前に迷惑をかけたとわびるからには、韓国のみに頭を下げるのはスジが違うと思います。
（中略）こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。（引用おしまい）
「中国」は言いたくない
ですから、私たちは、心に留めなければなりません。満蒙開拓の名のもとに大陸に移住し、帰国こそ果たせたものの満州の土地や資産を失って、再び見ず知らずの未開の場所へ戦後開拓団として移り住み、苦しみながらも生き続けようとした貧しい人たちもいます。
戦後、六百万人を超える引揚者が、アジア太平洋の各地から無事帰還でき、日本再建の原動力となった事実を。中国に置き去りにされた三千人近い日本人の子どもたちが、無事成長し、再び祖国の土を踏むことができた事実を。米国や英国、オランダ、豪州などの元捕虜の皆さんが、長年にわたり、日本を訪れ、 互いの戦死者のために慰霊を続けてくれている事実を。（引用おしまい）
おじさんがこどもだったころには、手足のない傷痍軍人が路上のそこかしこにいました。仕事がないんです。働けないんです。残った方の手でハーモニカ吹いて小銭を求める、乞食同然の引揚者もいました。十把ひとからげに国家再建の原動力などと持ち上げるのは、内容のない言葉遊びです。はい、次。
戦争の苦痛を嘗め尽くした中国人の皆さんや、日本軍によって耐え難い苦痛を受けた元捕虜の皆さんが、それほど寛容であるためには、どれほどの心の葛藤があり、いかほどの努力が必要であったか。一部を添削します。「日本軍によって戦争の苦痛を嘗め尽くした中国人の皆さんや、
そのことに、私たちは、思いを致さなければなりません。（引用おしまい）
寛容の心によって、日本は、戦後、国際社会に復帰することができました。戦後七十年のこの機にあたり、我が国は、和解のために力を尽くしてくださった、すべての国々、すべての方々に、心からの感謝の気持ちを表したいと思います。「戦後生まれの私は、あの戦争には何ら関わりがないから謝罪しません」という風に読めますが。よほど村山談話が気に食わないんですね。わかります。
日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。しかし、それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません。謙虚な気持ちで、過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任があります。（引用おしまい）
「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と、「私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません」が論理矛盾していますけど。「真正面から向き合う」とは、いかなる意味であるか考えてみよう。
私たちの親、そのまた親の世代が、戦後の焼け野原、貧しさのどん底の中で、命をつなぐことができた。そして、現在の私たちの世代、さらに次の世代へと、未来をつないでいくことができる。それは、先人たちのたゆまぬ努力と共に、敵として熾烈に戦った、米国、豪州、欧州諸国をはじめ、本当にたくさんの国々から、恩讐を越えて、善意と支援の手が差しのべられたおかげであります。（引用おしまい）恩讐を越えた旧敵から、中国は除外されました。わかりやすい人です。おそらく「たくさんの国々」のうちのひとつなんでしょう。
私たちは、自らの行き詰まりを力によって打開しようとした過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。この原則を、これからも堅く守り、世界の国々にも働きかけてまいります。唯一の戦争被爆国として、核兵器の不拡散と究極の廃絶を目指し、国際社会でその責任を果たしてまいります。（引用おしまい）「戦争被爆国として、核兵器の不拡散と究極の廃絶を目指す」なら、米国の核の傘から外れなきゃいけません。それを宣言することで初めて、この文言は意味を持ちます。
経済の繁栄こそが平和!?
私たちは、二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、そうした女性たちの心に、常に寄り添う国でありたい。二十一世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードしてまいります。（引用おしまい）再び女性の尊厳に言及。慰安婦問題の国際的評価によほど関心があるのでしょう。国家の代表の言葉としてふさわしい添削をしましょうか。「私たちは、二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉を深く傷つけた過去を、この胸に刻む」。加害国としての反省が的確に伝わります。
私たちは、経済のブロック化が紛争の芽を育てた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる国の恣意にも左右されない、自由で、公正で、開かれた国際経済システムを発展させ、途上国支援を強化し、世界の更なる繁栄を牽引してまいります。繁栄こそ、平和の礎です。暴力の温床ともなる貧困に立ち向かい、世界のあらゆる人々に、医療と教育、自立の機会を提供するため、一層、力を尽くしてまいります。（引用おしまい）またまた経済のブロック化元凶説が出てきました。もともとは鬼畜米英が俺たちをのけ者にしたからいけないんだ、と主張したいんですね。帝国は悪くないと。この人、本気でポツダム宣言を認めていないのではないかと心配になります。
経済の繁栄こそが平和の基礎なる思想はどこから生まれるのでしょう。民族にはそれぞれの文化や哲学があります。最初の方で、民族自決の原則について何か言ってなかったか。民族自決をさらに突き詰めれば、それは個人の尊重に行き着くでしょう。援助は大事ですが、カネのバラまきを最優先とするのは傲慢です。
私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。（引用おしまい）「国際秩序への挑戦者」とは何でしょう。秩序の基準を安倍さんは説明していません。多数派なのか強者なのか。あの時は長いものに巻かれなかったから戦争に負けたんだ、とも読めます。戦前の我が国を現在、国際秩序の挑戦者などと一義的に考えている国はないと思います。正しくはアジア諸国への侵略者。ポツダム宣言を受諾している以上、現政府も大日本帝国に対する認識は同じはずです。
戦後70年の厳粛であるべき夏に中身の無い、もごもご口ごもったような戦前体制擁護みたいな駄文を内閣総理大臣が発表するとは、情けなくて、情けなくて。
こんなもんはゴミ箱に入れて、軍事力に頼らず近隣諸国と仲良くできる方法を、次項で過去から探ります。キーワードは「ウサギ小屋」。この項、続きます。
