一般読者が知り得ぬ現場での取材エピソードを紹介したり、そこから提出される独自の視点を提出したりします。冨重さんの記事には必ずその「視点」があって、毎週火曜が楽しみです。
故障のない若い投手の間で、ひじ強化のための手術が流行していると聞けば、その危険性に警鐘を鳴らす。まっとうです。
コラムによれば、40年前の広島初優勝の時に「カープ女子」として、後楽園球場での胴上げに立ち会ったそうですから、今の中堅プロアスリートからすればお母さんぐらいの年齢でしょうか。選手たちは、スポーツ新聞のちょうちん記事ばっかり見てないで、リアル毎日かあさんの提言を読みなさい。
6月30日付の「寝ても覚めても 恒星だけのお祭りを」は、プロ野球オールスター戦についてのお話でした。
オールスター戦は、限られたスターしか出られないお祭りにすべきだ、と思った。ペナントレースでは、脇役の渋い活躍も見どころだが、オールスターは違う。主役が派手に競い合ってほしい。脇役は不要のイベントだ。この指摘は正しい。1978年オールスター第2戦を鮮明に覚えています。パ・リーグが、山田久志(この年18勝4敗20完投)、鈴木啓示(同25勝10敗30完投)、東尾修(同23勝14敗28完投)の完封リレーをやらかしました。テレビの画面を見ながら、鳥肌が立ったのを覚えています。これこそ「オールスター」だと、心震えたものです。
そのためにはまず、先発、中継ぎ、抑えと3部門に分かれた投手のファン投票を、以前のように一つにまとめた方がいい。エースの競演が見られるのは、オールスターの特権なのだから。リリーフ投手は監督推薦で選べばいい。(引用おしまい)
一方で、オールスターは脇役が主役に踊り出るチャンスでもあります。冨重さんは「オールスターゲームは恒星が出るべきもの」と指摘していますが、小物の衛星だと思われていた輩がビッグバンを果たす舞台でもあります。冨重さんがカープ女子ど真ん中だったころの1975年オールスター第1戦の模様を、同年7月20日付毎日新聞の今堀記者による「“ポスト長島”見つけた」より引用します。
(前略)パの先発太田幸の出来はそれほどよくない。だから1回、山本浩が2ランを左翼へたたき込んだ時は、何となくセはよく打つなあと思った。が、王、田淵と倒れたあと、衣笠がライナーでソロホーマー。ちょっと驚いた。2回は山本浩が、3回は衣笠がそれぞれ2打席連続ホーマー。赤いヘルメットばかりがベースを駆け抜ける。両リーグがやたら戦う交流戦によって、オールスター戦の価値は下がってきているのでしょう。南海ファンだったおじさんは、最下位弱小球団にありながら、オールスターで必死に安打を打ちまくるホークス藤原満選手の勇姿を堪能したものです。今はなき懐かしいプロ野球風景。特別なお祭りが価値を失っていく現在、脇役が主役に代わっていく姿をファンが体験できる稀有な場所として、オールスターゲームを見る価値はまだありそうです。
山本浩などはホームインすると次打者の王に帽子を脱いで頭を下げ、そしてちょっと首をかしげた。自分でも大当たりに驚いているのだろうか。試合後はベンチでもみくちゃ。山本浩は「連続本塁打は公式戦では何度かありますが、一体どうなっているですかネー」。
オールスター出場は今回が三度目。この日の第一打席の本塁打が、本人にとって、シリーズ2本めの安打。「こういうところで打てると自信がつくものです」。その通りだ。衣笠も「目の前で仲間が打つんだから、ハッスルしますよ」
その言葉通りの活躍でセのポスト長島(三塁手)は衣笠に決まった。試合前長島が「衣笠の守備は本当に巧くなった。ことしのベストナインは確実だよ」といっていた通り、守りも軽快なところをみせた。「これまでオールスターでは長島さんがずーっとサードを守ってきた。そのあとを守るのはまだピンとこないけど、ことしになってガタンと落ちたらはずかしいから必死だった」とニッコリ。「去年の三塁手と比べたらどう」と長島に聞くと首をかしげて苦笑い。(引用おしまい)