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2015/04/23

大洋ホエールズが残したもの

三浦知良選手が、サッカーJリーグのゴール最年長記録を更新しました。サラリーマン酒場で勝手を吹いているオヤジどもの間で「中年の星」などと呼ばれているそうですが、三浦選手に希望を見いだすべきは、むしろ若い現役選手であったり、本気で職業スポーツを目指す少年少女。
大方のプロアスリートには、引退後の保証がありません。短い選手生活に人生をかけたものか悩める若者に、三浦選手は最高の目標だと言えるでしょう。もっとも、相当な精神力と努力が必要だけどね。
各プロスポーツ業界は、リタイアする仲間たちに仕事をあっせんする仕組みを考えてもいいと思います。長い歴史を誇るプロ野球なんか率先してがんばらないと、みんなメジャーに行っちゃうぞ。
大学卒の選手に限ってですが、それを実践した球団が過去にありました。大洋ホエールズ(現・横浜DeNAベイスターズ)です。今日は、その制度をめぐってチームが崩壊した哀れなお話をします。
1965年のシーズン、三原脩監督は、選手に厳しい罰金制度を課しました。
3点以内に抑えたのに負けたら、ベンチの野手全員が各300円、4点以上取っても負ければ投手陣が同額を徴収されました。
野球とはそんな単純な要素では成り立たない競技だと思いますが。世に「三原魔術」と評された名将も、この措置に限っては「三原呪術」と称すべき不可解を覚えます。50年前の貨幣価値だから、300円は決して安くはありません。
開幕首位で飛び出した大洋は、この三原式罰金管理野球に、みるみる失速。ふがいない選手たちに、別所毅彦コーチが言ってはいけないことを口走って追い討ちをかけてしまいました。
同年8月23日付フクニチスポーツの「大洋  首しめた“罰金制度”」から引用します。
(前略)つい最近別所コーチは「君たちは本社出向社員だから試合に身が入らないのだろう」という大失言で物議をかもしてしまった。大洋は大学出の選手をスカウトする場合、将来の生活安定を盛り込んで現役引退のあかつきは親会社大洋漁業に就職することを条件にしている。別所コーチは“将来が保証されているから気力が充実しないのだ”と内心出向社員制度についてにがにがしく思っていたことであろう。それがチームの不振でついに口に出た。(中略)だがベストをつくしても勝てないため気分的に参ってしまった選手にとってこの失言は許されなかった。まず秋山、鈴木隆らベテランの非協力に三原ー別所ラインは及川、高橋、平岡、佐々木ら若手を前面に押し出した。それは打者でも同じ。最近は林、麻生、山田らにより多く出場機会を与えている。
8月上旬川崎球場で行われた試合で「秋山が登板を拒否した」という流言が記者席に流れるほど首脳部とベテランは完全に離反してしまった。(引用おしまい)
往年の300勝投手の学歴逆差別発言。グラウンドの教師であるコーチがこれでは、優勝なんかできるはずがありません。ホエールズは4位に終わりました。
後に大洋は消滅、横浜と名を変えた球団が優勝するまでに、30余年を待たねばなりません。「別所の呪い」ですね。
興味深いのは、球団が選手を親会社の出向と規定していた点です。球団が選手を指名するドラフト会議はこの年のオフシーズンから。自由競争下にあって、有望選手を得る手段として、大洋は引退後の生活を入団の付加価値と考えたのでしょうね。
当時は窮余の一策だったかもしれないこの方式、今後のプロスポーツのリクルートに生かせぬものか。
大卒などと言わず、全ての新人に一般サラリーマン並みの人生を担保すれば、邪念の失せたプレイヤーが良い成績を挙げるかもしれません。
三浦選手は例外中の例外。大洋ホエールズが残した就職システムを考えなおせば、プロスポーツの門戸を広げると同時に、業界の信用度を上げることになると思いますが。