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2015/01/13

爆笑問題と表現の自由を擁護する(2)

爆笑問題の政治漫才を「個人攻撃」と言い切った籾井勝人・NHK会長の記者会見の新聞記事を読んでわかるのは、取材する記者も読者も、放送協会の会長を安倍政権の太鼓持ち、あちら側の人としてとらえていることです。これ自体が異常です。
公共放送風刺の嚆矢であり、ラジオの人気者だった三木鶏郎の名をおそらく知らない会長は初めて(池田芳蔵という人がいたから2人目かも)。
前項からの続きです。爆笑問題の立場、表現者たる権利を有する国民の将来を勘案するなら、この問題を哀れでこっけいな老人像に収れんして、ネットで叩いて笑って、それで終えてはいけないと思います。
NHKが、風刺漫才すら放送できない空気になっているのはなぜか? 上層部の眼がこわいからです。なぜ上層部はこわい眼をするのか? いちゃもんをつけかねない政治家がいるからですね。これが問題の根幹。
民主主義国家を自認する米国と日本の政界におけるユーモア感度を比較してみましょう。ワシントンの「マーキー・ラウンジ」なるバーが、ポリティカル漫談でにぎわっていた、1978年4月6日付の朝日新聞夕刊「酒にし・ひがし」から引用します。
(前略)週5日、毎晩2回出演しているマーク・ラッセル(Mark Russell)を聞きにくるのだ。全米きっての政治風刺家として知られ、ピアノを前に、替え歌を交えながら米国の政治、経済、社会を小気味よく切りまくる―― 
「ニクソン大統領は、ウォーターゲート事件があんな形になったのは、おしゃべりマーサ(ミッチェル元司法長官夫人)のせいだという。みなさん、この発言を信じるのなら、第二次世界大戦はスイスが引き起こしたというのも信じることになりますぞ」(爆笑)
「ジミー・カーターが大統領になる前、われわれ米国民は彼のことをよく知らなかったから不安でした。でも、いまは違います。彼のことを十分に知ってしまったのでますます不安がつのってきた」(拍手)――
といった調子で、米政府の中東和平、パナマ運河条約、戦略兵器制限交渉、エネルギー法案……あらゆる政策をあざやかに切っていく。(中略)
ホワイトハウス記者団の年1回の公式晩さん会には、時の大統領と共に必ず招待され、大統領を目の前に置いて米国民の気持ちをチクリと代表する。このラウンジ、閣僚や議員も姿を見せる。連邦議会のスタッフや各省庁の官僚は常連だ。中央政府との業務でワシントンを訪れる50州からの政官界、経済・労働界の代表もマーク・ラッセルを聞きに来る。爆笑し、拍手を送り、彼の風刺から政治のヒントを得て各地へ帰っていくわけだ。
「政治に対する米国民のムードを知ろうとすれば、この酒場はまず絶対に欠かせない場所だ」。週1回は必ず足を運ぶという米上院のスタッフは「へたな世論調査よりも、マーク・ラッセルと聴衆の反応の方がはるかに的確な米政治のバロメーターである」という。(引用おしまい)
風刺の的である官僚や議員が喜んで漫談を聴きにくる米国と、身内をいじられることが嫌だという雰囲気をNHKに感じさせる政治家がかっ歩する日本の差に悲しくなります。
ラッセルさんの公式サイトによると、一度引退したのですが、近年復帰したようです。その需要がいまだにあるアメリカ民主主義の懐の深さが理解できます。
爆笑問題には、表現の自由墨守のため、今後もめげることなく政治漫才を続けてもらいたいものです。
首相官邸記者団(記者クラブっていうの?)も、年に一度ぐらい、総理大臣を囲む懇親会に爆笑問題を呼んで、存分に政治漫才を楽しむっていうのはいかが?