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2014/12/25

クリスマスプレゼントには日本製を!

クリスマスです。みんなの家にサンタクロースはやってきましたか?
今でこそ日本のオモチャは、丁寧な作りと高機能の評価を得てクリスマスプレゼントに大人気ですが、昔は、その輸出額・品質ともの、とある巨大玩具帝国の後塵を拝すばかりでした。
ドイツです。現在でも大のオトナがコレクションに血道を挙げるビスクドールやメルクリンの鉄道模型を抱える一大玩具輸出国と大日本帝国の彼我の力関係はいかほどであったのか?
1915年4月10日付の東京朝日新聞にデータが乗っていました。「玩具屋大繁盛 米国からドンドン注文が遣って来る」から引用します。仮名遣い、句読点、改行などは、おじさんが現代風に改めています。
欧州大戦以来、外国から玩具の注文、日々に激増し、今では我が玩具製造人は目の回る程に多忙を極めている。世界中玩具の最大輸出国は独逸(ドイツ)で、毎年5千万円も売り出している。その次は日本だが、独の20分の1なる260万円とはいささか心細い。これら玩具の唯一顧客は米国で、昨年は2百3万円を輸出し、次は英国の40万円、支那に28万円、印度(インド)に20万円。それから豪州、南洋蘭領、海峡植民地(注・朝鮮)、加奈陀(カナダ)、マニラ等の順序になっている。かくして日本品は独逸の強敵と海外市場で競争してはきたものの、独逸製の堅牢廉価、斬新に対し、日本品は粗製濫造、高価なので常に圧せられている。
同じく猿、七面鳥、河童、天狗面、オットセー等の玩具をこしらえるにしても、日本ではただ単に現物そのままの物で、格別新趣向を凝らさぬのに、独逸では実に巧妙に斬新に製造する。また独逸では大規模の会社工場にて盛んに製品するのに、日本では辛うじて東京より機械製、紙製、箱根より木材製、名古屋より陶器製、大阪より金属製、布綿細工の物が出るだけであるが、全体玩具の種類はすこぶる多く、動く物、鳴く物、飛ぶ物、跳ねる物、回る物、その他滑稽、奇怪、珍妙等、千種万様である。この中、子供の最も面白がるのは静物玩具よりは動物玩具である。
そこで少なくとも顧客国の風習習慣から児童心理を子細に研究せんければ、思う通り販路は開けない。この点は常に独人に先駆けされ、我が玩具商人は研究心が不足で、これに対する観念がどうも余程幼稚である。(引用おしまい)
ビスクドールや精巧な乗り物のミニチュア相手に、天狗の面や瀬戸物で対抗していたようです。そりゃお面や瀬戸物、細木細工だって立派な文化ですが、異文化圏のこどもがどちらを喜ぶかと問われれば、答えは明白でしょう。
売り上げ20対1、堅牢対粗製乱造。価格でも負けているところへ、カッパだの天狗だのを、玩具先進国との競合商品として売り出そうというのですから、新聞に「余程幼稚」と書かれても仕方がありません。
しかし、弱小日本玩具製造業界に神風が吹きました。第一次世界大戦です。ドイツでは軍需産業が優先されて、オモチャどころではありません。殺し合いをやってる敵国からクリスマスプレゼントを買う人はいません。由来不明の東洋の妖怪や綿布細工だって、サンタの袋が空っぽよりはマシ。引き続き、同記事から引用します。
ところが、大戦乱の結果、作年夏より独逸の玩具輸出は全然途絶したので、ことに米国において玩具は恐ろしく欠乏を引き起こした結果、我が国に対する注文が激増した。およそ米国において、最も玩具を要するは、年末のクリスマスの贈答品、賞品等に使用するの時である。これは少なくとも、半年前より各国に注文をしておかないというのが、近来我が玩具の供給が激増せるゆえんであって、これは我が重要輸出品の販路を開拓するため、進んで多年我が玩具を海外市場より駆逐したる強敵独逸の販路を奪うべく、今は千載一遇の好機である。(引用おしまい)
 戦後もドイツはベルサイユ条約の締め付けのせいで経済はめちゃくちゃ。ヒトラーが政権を握っても、その海外での評判の悪さのせいか、日本のクリスマス向け玩具輸出は記事で確認する限り、少なくとも1934年ごろまでは好況が続いていたようです。
その空気が変わるのは、おそらく1937年の日中戦争勃発。前年の日独防共協定も影響したかもしれません。
19381124日付の東京朝日新聞「日本玩具排斥提唱」から引用します。
【ロンドン22日発同盟】クリスマスの接近と共に英国内ではクリスマス売り出しをねらって、日本品のボイコット運動が再燃せんとしているが、英国仕立業労働者全国連合会の機関紙は22日、日本製玩具のボイコットを提唱した。(引用おしまい)
自国の産業振興には、よそさんと仲良くすることが一番です。敵を作って回れば回るほど、お国の商品市場は小さくなるんです。
経済政策の是非を問うて選挙を闘ったリーダーが、終わった途端に憲法改正なんて、周辺国と米国親分を敵に回す言辞を弄する国は、自ら市場を小さくしています。中国や韓国のお客様にモノを買っていただいてナンボちゃうの? おじさんが輸出工業製品会社の社長だったら、怒鳴り込みますね。第三の矢、マダー?
オモチャのお話に戻ります。海外オークション「ebay」を覗くと、ドイツのアンティーク玩具の値段に驚くことがあります。そこに付けられた付加価値は、たぶん「文化」なのでしょう。発売数十年を経ても、オモチャを支度する親御さんサンタクロースですら、こどもにプレゼントする価値を見出せる、そんな夢のある玩具が日本から売り出されれば素敵ですね。