日本人がウィスキーを造っている事実を知らない飲み助への親切からか、ジャパニーズウィスキーの歴史を簡単に紹介するメディア(Fox Newsなど)もあり、そこには「Masataka Taketsuru」の名が。あの駄作朝ドラって、海外でも流してるんですよね。外国の皆様、日本ウィスキーの父・竹鶴政孝は、あんな情緒不安定なスカタン野郎ではありませんよ。隔靴掻痒とはこのこと。
閑話休題。今回のウィナー「山崎」は1984年3月に発売されました。度数を下げたライトウィスキーがちまたにあふれる中、1万円もする、どっしりしたシングルモルトの登場は、時代に逆行する商品にも見えました。
もっとも、このころのサントリーは、当時の言葉で言えばイケイケの時代。大学生の人気企業ランキングでは男女ともトップ。サントリーの名を冠した書籍が書店に並び、年間売上高1兆円目前の超優良企業でした。
しかしこの年、同社を世相の波が襲いました。酒税の引き上げと、焼酎ブームです。特級ウィスキー、サントリーオールドは売価の半分以上が税金になり、焼酎に押されたウィスキーは、ビール、清酒に次ぐ第三のアルコールの座から転落します。
宣伝上手で知られたサントリーが広告費を削る緊急事態。普通の会社なら、「山崎」みたいな販売数の望めぬ高級品は生産打ち切りです。
でも、サントリーはそうしませんでした。1984年12月3日付の朝日新聞「サントリー帝国に異変」から引用します。
(前略)東京・銀座のネオンの下でいま、「山崎まつり」が繰り広げられている。山崎とは、サントリーがモルト100%を売り物に今春出した特級ウイスキー。同社のウイスキー発祥の地である大阪府北東の山崎にあるウイスキー工場、山崎ディスティラリーの名を冠したところに、力の入れようがうかがえる。サントリーは11月から、銀座地区を丁目で区切り、それぞれの区域に数人ずつの専従営業マンを投入した。バーやクラブなどの飲食店をしらみつぶしに回り、これは、という店に1本1万円の山崎を3本買ってもらう。ただし、あとでサントリー側が客として必ずボトルキープする。キープ代は1本が3万円はするので、これで店の負担はゼロ。残り2本は別の客にキープしてもらえば、その分は丸ごと店の収入になる勘定だ。つまり、サントリー側は、3万円の売り上げのために、3万円の経費をかける。採算度外視の、なり振りかまわぬ商法だ。巻き返しを図るためのとばっちりは内勤の社員にも及んだ。11月には、管理部門の男子社員延べ千人が動員され、全国の酒販店1万店を回ってオールドの売り込みに歩いた。今月には女性社員も一線に出て、延べ430人が主要百貨店での歳暮商戦を支援する。(引用おしまい)
「山崎」 が世界一のウィスキーの称号を得たことで、社長や工場関係者がマスコミの寵児に祭り上げられるかもしれません。でもね、「山崎」をここまで守り、育てた陰には、サントリーの一般社員たちの汗と涙があったという事実を忘れてはいけないと思います。