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2014/11/28

「マッサン」は時空を超える

なんや、あのきったない酒樽!? ホコリだらけやん。拭き掃除もせんと、アレからアルコールじゃばじゃば出して売ったんかい。不衛生な会社やな。ウ井ッキーなんぞ飲んだら病気なりまっせ。
「マッサン」へのそんなツッコミや、現ナマどかんと見せびらかす大将の成金ぶりはとりあえず置いといて、引っかかったのは昨朝のセリフ。
「いつか大勢の日本人にウィスキーを飲んでもらうためには、まずこの国の人にウィスキーいう酒があることを知らせ、根付かせなあかん」
大正時代の日本は、それほどに西洋文化未開の蛮地だったのでしょうか。19191219日付の朝日新聞の読者投稿欄「鉄箒」より引用します。仮名遣いなど、おじさんが現代風に改めています。
銀座の某商会で売り出しているウイスキーの英文レッテルには直輸入(注・当時は「じきゆにゅう」と読んだようです)蘇格蘭(スコットランド)製造芳醇無比の最古酒と銘打っているが、もとより純然たる和製である事は、なめてみずとも解りそうなものを、「メード・イン・ジャパンでは御客様の御意に召しませんので、罪と知りつつ、へへへ」と番頭が笑っているともご存じなく、舶来の名に惚れて舌鼓を打っている紳士方は、そん所そこらにたくさん在る。
泰西(注・西洋諸国)の燦然たる(注・光り輝く)文化に驚嘆して、しきりと彼の文物を鵜呑みした明治時代はいざ知らず、世界5大強国の一たる、今日の日本がこれでは不体裁だ。国民の舶来崇拝熱はインフルエンザ以上にやっかいな持病だ。
物品はまだしも、人間までもバタ臭いのをもてはやす。英人の子供が英語をたくみに話すとて、偉いと感ずった(ママ)没常識漢に類した人が少なくない。
(中略)労働問題でもその通り。西洋の流行といえば、玉石混交、浮ついているのは頼りない話だ。必ずしも、ストライキやロックアウトを真似ずとも、膝とも談合、円満解決の方法はありそうだ。(中略)最近輸入されたサボタージュは擯斥(ひんせき、排斥に同じ)すべき卑劣手段であるのに、ただ舶来の新味に随喜して、学生までが「今日は学校をサボル」などと得意然と言っているとはもっての外だ。(引用おしまい)
マッサン帰国設定以前の記事です。日本が舶来ブームに沸いた西洋カブレ状態で、ウィスキーもよく売れていたことがわかります。大正デモクラシーの時代とあって、ストライキなどの言葉が普通に通じ、「サボる」も、すでに流行語でした。
人物設定やストーリーは、ある程度を作家の裁量に任すべきでありますが、時代背景まで改ざんしてはいけない。舞台はもう大正期後半ではなくなっています。坂上田村麻呂や織田信長が玉山鉄二さんと共演してもおかしくないカオスの空間で、日本初の本格ウィスキーづくりが行われようとしています。
「ごちそうさん」「花子とアン」、そしてコレ。朝ドラの時代考証は劣化の一途です。そのうちに「メード・イン・ジャパンでは御客様の御意に召しませんので」と海外ドラマが求められる、舶来ブームが再び訪れるかもしれません。