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2014/11/18

寝台列車事始

寝台列車という手段は、旅情を誘います。飛行機に新幹線が主役の効率優先の時代にあって、寝台車は旅の時間を存分に使いたい人のためのぜいたく品。JR九州の「ななつ星」のように高級志向になるのも当然です。
20世紀を目前にした1900年10月、東海道線の新橋ー神戸間に寝台車が導入されました。慣れない客が多くてトラブルが絶えなかったのか、寝台利用者へのガイドが新聞に乗ります。当時の寝台車の様子を伝える面白い史料なので紹介します。
19001017日付の東京朝日新聞「寝台車乗客の注意」から引用します。
本月1日より東海道線急行列車の内、午後6時10分新橋発同6時神戸発列車に寝台車を連結したるが、これに乗車せんとする旅客の心得置くべき事項、左のごとし。一、寝台車は寝台車用として、普通の一等車以外に連結し、1車5室にて1室4人分の寝台を有し、寝台ごとに番号ありて奇数は上段、偶数は下段とす。寝台の申し込みをなすときは望む場所を指定すれば、座席の余裕ある限り、その座席を占有することを得べし。一、寝台車には他の客車のごとく網棚なく、また腰掛の下に余地なきをもって、携帯する手荷物はかなり少量の物品にあらざれば、自他の不便、珍なしとせず。一、寝台車は車内の道路極めて狭隘(きょうあい)なるにより、見送り人または手荷物運搬人の車内に立ち入ることを禁止しているをもって、携帯する手荷物は列車給仕に命ずれば、給仕はその命じる車室に持ち運ぶべし。一、寝台車に毛布と枕は備え付けあり。冬季に至れば、スチームヒータ(ママ)をもって暖を取る装置故、旅客は別段防寒具を用意するの必要なし。一、寝室の貸し付けは、一昼夜と夜、または昼間の三通りに区別しありてその賃金もまた同一ならず。夜間とは、上りは神戸-御殿場間(11月1日よりは神戸-山北間)、下りは新橋-米原間(11月1日よりは新橋-草津間)にして、この終駅に着したるときは普通の一等車に転乗せざるを得ず。この場合に一等車に転乗せざるときは割高なる賃金を支払わざるを得ざるにつき、この面倒を避けんとせば自己の下車する着駅まで請求するを便利とす。(引用おしまい)
寝台は予約制だからみだりに席取りを争うな、大量の荷物を持ちこむな、乗客以外の人間を客車に入れるべからず、ポーターがいる、寝具の持ち込み不要、暖房付き、利用料金は3通り、終着駅で降りる際には車両を乗り換える。
以上を広報するのに、当時は新聞しか手段がなかったのですね。インターネットで予約できる現代と比較するといかにも不便ですが、空を飛んだり、時速300キロを超える弾丸特急で移動したりの平成の世では体験できない、蒸気機関車がゆっくり寝台車を引く明治の旅の趣を求める気持ちが日本人に残っている限り、寝台列車は死に絶えることなく走り続けるのでしょう。