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2014/10/23

摂津酒造と住吉酒造

大作:ウチの優子も嫁入りや。引出もん考えたらんと。
政春:社長、我が社のワインはどうじゃろ? 絶対に爆発せん、安心安全の商品じゃけ。
エリー:待ってくだサイ。優子さん、ホントは働きたい。国会議員なりたい。
優子:せやねん。お父さん、ワインぎょうさんちょうだい。ウチの写真と「優子」いう名前入れたラベル貼って、有権者に配り倒すねん。
政春:いけん、いけん! 今、そがあなことしたら、安全ワインが永田町で一本残らず大爆発起こすけぇ!

朝ドラ「マッサン」と国会の虚実W優子さんが、迷走している面白さを笑ってたら、虚の方の実家も、リアルの小渕優子さんも、ワイン問題で爆発炎上中のシンクロニシティ。
展開は相変わらずのノッペラときどき意味不明がツラい。会社の命運を左右するお見合い会議の席に、一社員のスコットランド人嫁が参加して、四の五のしゃべる画は、モンティ・パイソンのメンバーに見せたいくらいのシュールコント。箸で妻を指しつつしゃべる主人公も品がないねえ。
スコットランドの伝統と文化が生きるスコッチウィスキーの話なのに、その辺がまったく提出されていないから、味に深みやコクがない。スコットランド情報はエリーが補完するものだと、てっきり思い込んでたのがいけない。ここまではコメ炊くか、よそんちにちょっかい出すか。作家が外国文化と酒造業に興味がないのはわかった。
倒産の危機を迎えている住吉酒造は、お人好しの社長が行き当たりばったりに切り盛りしている零細企業のごとく描かれていますが、モデルとなった摂津酒造は実はなかなかの会社だったようです。同社の看板が終焉を迎えた1964年6月2日付の朝日新聞「宝酒造など3社合併」から引用します。
宝酒造(本社京都市、資本金100億円、田中豊社長)摂津酒造(本社大阪市、資本金5億4080万円、阿部喜兵衛社長)本辰酒造(本社京都市、資本金6700万円、阿部祐三社長)の3社は、きたる9月16日付で合併する、と1日発表した。
宝酒造はしょうちゅう、みりんでは業界1位を占める酒類の総合会社で、摂津酒造は合成酒やしょうちゅうを主力とした中堅会社。1日から酒類の基準価格廃止で業界の販売競争が一段と激化する形勢となったので、以前から首脳部が親しかった3社が合併、合理化と販売力を強化することになったもの。
合併条件は1対1で、合併後は宝酒造が存続し、他の2社は解散する。新資本金は1055800万円。3社合併で、主な製品の市場占有率は、しょうちゅう27%、合成酒11%となる見込み。(引用おしまい)
1960年代に資本金5億円超の「住吉酒造」をあまりぞんざいに扱うと、東証一部上場の宝ホールディングスからNHKにクレームが来ますよ。くわばらくわばら。
社長の阿部喜兵衛は、本格国産ウィスキー生産を目指して、竹鶴をスコットランドへ送った人です。史実では竹鶴の様子を見に、あの時代に渡英までした人物らしいではないですか。優柔不断な小人にされたまま消えゆくには惜しいモデルです。
阿部喜兵衛の訃報を添えておきます。会社が宝と合併した約1ヶ月後に亡くなりました。
1964年7月14日付の朝日新聞の訃報から引用します。
阿部 喜兵衛氏(摂津酒造社長) 12日午後3時、脳軟化症のため大阪市帝塚山中4の自宅で死去、70歳。告別式は18日午後2時から阿倍野斎場で。(引用おしまい)
モデルになった人間が実在する限り、その人をていねいに描いてあげるのが、ドラマの作法ではないでしょうか。

追記:記事をアップして、計算が合わないことに気づきました。竹鶴を渡英させた阿部喜兵衛は先代、訃報の阿部喜兵衛はその女婿でした。