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2014/09/05

「花子とアン」、つまらなさの秘密(1)

毎朝ドラマ寄席にご出演の快楽亭ブラックバーン・東洋亭スコットさんが帰国されます。お別れのスペシャル舶来漫才をお楽しみ下さい。

ブ:ゴキゲンヨウ! ようやっと御役御免や。食事前にお祈りするだけでイエス様の学校やぬかす、邪教の校長役は難儀やったで。
ス:あんたは楽な方やわ。ウチは全寮制の学生寝静まった後、毎晩けったいな歌うたわされて、かなんかったわ〜。何やええ話にされて回想シーンでアホみたく使い倒しよった。恥ずかしいてしゃあなかってん。
ブ:ところであんた、なんでハナに「赤毛のアン」渡して、翻訳せえやら余計なこと言うたんや?
ス:知らん知らん! ウチも台本渡されて初めて自分がモンゴメリの愛読者や、知らされてん。おまけにいつの間にか恋人も戦死しとるがな。第一次世界大戦いうたら、ハナが教員なった年のスタートやで。
ブ:カナダは志願兵制やったな。ホンマ何が悲しゅうて、ええとこ40(しじゅう)手前のおっさんがフランスくんだりまで鉄砲担いで行くねんな。
ス:作家のセンセは反省しいや。ゴートゥーベッドや!
ブ:それウチのセリフやんか! もうええわ。

物事には必ず原因があり、その結果が歴史になります。「花子とアン」にはそれが無い。ずいぶん昔に触れただけで提供情報のない男性のペンダント握りしめる大写し見せられたって困るねえ。年齢の違和感があり過ぎて、職業軍人の将校だったと仮定するなど、想像の翼を広げるのに忙しい。
今日はカナダつながりで、第一次世界大戦にカナダ軍の兵卒として欧州に赴き、死んでいった日本人たちのお話をします。「なぜ」日本人がカナダの軍隊に入ったのか。1916年10月5日の東京朝日新聞「邦人義勇兵の成功」から引用します。仮名遣い、改行や句読点はおじさんが現代風に改めています。
加奈陀(カナダ)日本人会が主唱募集せる加奈陀在留邦人義勇兵は、先にアルバータ州第13大隊に47名参加、出征し、現に仏国戦線に立ち、英仏将士の称賛を博しつつあるが、今回更に同州第175大隊に入営せる邦人義勇兵57名も、英国に向かって出征せり。
第13大隊に従軍せる一邦人義勇兵よりの来信によれば、彼らはハリファックスから乗船してリバプールに上陸するまで水雷艇に護衛され、夜間睡眠を取る以外は救命袋を身体にくくりつけ、独逸(ドイツ)潜航艇の襲撃に備えたり。
かくして倫敦(ロンドン)より約40マイルなるションクリフ兵営に送られ、主として塹壕戦の教練を受け、約1カ月の後、仏国戦線に立つに至れり。
(中略)戦線における邦人義勇兵の成績良好なる結果、各州競うて之が募集を加奈陀日本人会に申し込み、日本人会にてもなるべく多数の義勇兵を出し、幾多の排日問題、なかんずく邦人選挙権獲得の懸案を解決して、日本人の加奈陀発展の基礎を強固ならしめんと努めつつあり。
この努力は空しからず、去月ビーシー(注・ブリティッシュコロンビア)州の総選挙に当たりバンタム大隊に入隊せる邦人義勇兵は、加奈陀兵員選挙法によりて選挙権を与えられたり。これ日本人の海外発展に新記録(レコード)を作れるものなり。
現在各隊に入営せる邦人義勇兵は170余名なるが、なお日々増加しつつあり。戦後これらの義勇兵がビーシー州に帰来し選挙権を行使するに至らんか。従来、選挙権を有せざるがため、州議員より蔑除排斥されたる日本人も、おおいに権利を伸長し、幾多の排日案も必ずや解決さるべし(加奈陀日本人会東京支部山本氏談、引用おしまい)
 当時は東洋人移民の排斥運動が盛んで、日本人には選挙権すらありません。白人の職を奪うおそれのある日本人は、すでに選挙権を持つ彼らにうとまれます。むろん政治家は有権者(白人)の味方です。選挙権を得るためには戦争へ行くしかなかった。日系移民は家族や仲間を思い、何の因縁もないドイツ人と殺し合ったのでした。
理由を知れば、結果として生まれる人間ドラマに感動もできましょう。「アン」などという、現状中身も知れぬ英書の翻訳出版をその場で安請け合いするヒロインには、原因(動機)も職業的責任感もないから、そこに共感の余地がありません。
「なぜ」が無ければ、「何を描くのか」が見つかりません。「花子」がつまらないのは、脚本がそんな風に歴史を見る眼を放棄しているためだと思います。
この項、続きます