女のハダカや陰茎を垂れ流すテレビ局がある? ええっ、NHKが? それはけしからん。ほう、「日曜美術館」という番組ですね。
具体的にはどのような? 両腕の無いハダカの女の彫刻ですか。出演者がそれを見ろというのですね。違う? 「ミロ」ですか。わかりました。そのミロのビーナスとかいうヤツを摘発します。ブラジャーを着けさせます。障害者差別を助長してはいかんので、腕も付けて展示してもらいます。
陰茎の方は? ほうほう、ダビデなる男が丸出しで立っていると。首謀者の名前わかりますか? ミケランジェロですね。さっそく、ダビデならびにミケランジェロの両名を検挙します。番組制作者もしょっぴきます。ご協力に感謝します。
写真家鷹野隆大さんが愛知県美術館に展示した作品群が、警察からのクレームで「前バリ」を装着することになりました。表現の自由についての問題は、他所で活発な議論がなされると思います。本稿では、行政側のアタマは何十年たっても変わらないということを提起するにとどめます。
1924年5月、東京・上野でのフランス現代美術展の開催直前になって、警視庁は「近代彫刻の父」と呼ばれる偉大な作家の傑作の撤去を求めました。同月30日の東京朝日新聞夕刊「ロダンの『接吻』 警視庁から撤退命令」を引用します。
31日から開会予定の仏蘭西現代美術展覧会に陳列さるべき彫刻、ロダンの「接吻」について警視庁では撤退を命じる方針で29日午前、笹井保安部長から上野署に内命を伝えたが、31日午後の招待日に赤池(濃)総監は、保安部長とともに一応検分の上、正式に撤退命令を下すべく、もし主催者側からこれに関し苦情が出れば高圧手段に出ると、当局は意気込んでいる。(引用おしまい)知らぬ者なき「考える人」の作者ロダン(Auguste Rodin)の「接吻」は、全裸の男女一対が文字通りキスをしている作品。普通の感覚のヒトならば劣情のもよおしようのない芸術です。フランス大使館は外務省に抗議。美術関係者もこぞって撤去に反対しますが、彫像は最終的に「特別室」へ押し込められ、一般客には非公開とされました。
今となってはこっけいなお話ですが、法律判断の線引きが不可能なものに行政官が口ばしをはさむとロクなことにならないという典型例ですね。
関東大震災翌年の大正時代、旧憲法下のできごとだから、現代との比較はフェアじゃない? ところが、権力は戦後になっても繰り返すのですよ、それもロダン以上のビッグネームを相手に。この項、続きます。