コピー禁止

2014/08/07

西南戦争の「愛国心」

4年ほど前、九州新幹線全線開通を控えてのカウントダウンボードが主要駅に設置された時、西郷隆盛由来の宣伝キャラの掲示予定が、一般の抗議によって熊本県のみ、くまモンに変更された事件がありました。県民にとって、西郷は今でも西南戦争における「侵略者」なのでしょう。
1977年、西南戦争100周年時の両県の反応が対照的なので紹介します。熊本は当時の熊本城籠城食を再現したり、自衛隊が激戦地田原坂で往時のコスプレ演習を企画したりと、観光一色です。4月20日朝日新聞夕刊「西南戦争百年」から引用します。
(前略)概して、熊本側では、西南戦争は現代の観光戦に置きかえられている。いわばお祭りである。加藤清正が築いた熊本城は、いかに「難攻不落の名城」であったかを、ひたすらたたえてやまない。
これが鹿児島側となると、様子が変わってくる。負け戦となり、賊軍とも呼ばれた西南戦争は、むしろ禁句である。西南戦争百年ではなく「大西郷没後百年」となる。
顕彰館を建てるための募金が進み、小学校4年生以上には西郷伝記が無料で配られ、西郷の決起は「おカミが無理な政策をとったことへの警鐘」という風に、子供たちは意義づけする。そして西郷賛美は、現代いかに偉大な指導者に欠けているか、という英雄待望論に発展するのである。(引用おしまい)
戦勝国は戦争記念のお祭り騒ぎ、敗戦国はひっそりと恥をしのぶ。第二次世界大戦終結70年の来年は、世界中でこの光景が見られそうです。予言しておくと、ヒャッハーなアメリカンズがハメを外して日本国民の心象を害する行為を行っても文句一つ言えない官房長官が、中韓相手には「遺憾の意」を連発するよ。
肥後と薩摩の隣国それぞれのナショナリズムには、他にも考えさせてくれることがあります。西郷隆盛を安重根に置き換えてみましょう。「おカミ」は日帝。西郷隆盛を東条英機、おカミをルーズベルト米大統領にしてもいい。
西南戦争関連の両県の反応は、東アジアの戯画です。他府県から見ればくだらないことに一所懸命なアホ同士。愛国心って実はカッコ悪いんだね。
新幹線騒動の時は無名だったくまモンに、おじさんは「何、この不格好なクマ?」と拒否反応を示したもの(現在は違います。Tシャツも持ってるモン!)ですが、今ではこのキャラでよかったと思います。熊本側が西郷どんに怒って、薩軍を破った熊本鎮台の司令官・谷干城モデルの「たてき君」なんか出していたら、今度は鹿児島が憤怒。県境が緊迫していたかもしれません。むき出しの愛国主義って、やっぱりカッコ悪いよ。