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2014/08/13

七十一周忌の五十六より

山本五十六である。NHK衛星放送の終戦特集で、吾人の特集「山本五十六の真実」の放送あるを聞き視聴した。国を憂うる老兵として、主権者たる一億臣民に奏上望まんとす。
吾人が日独伊三国同盟及び対米開戦に反対した現実派の軍人である旨、広く知らしめんとする企画、汗顔の至りにして正視にあたわず。吾人に言わすらば正史にもあらず。
真珠湾奇襲にて敵空母撃ち漏らしたるを以って、連合軍の東京への空襲あるよし、料亭の女将に書き送りたるを、吾人の先見の明とするは戦起こりたるの元を考うる上でまことに愚かなり。
敵の空襲いずれあるは、米英開戦前から陸海の将官のみならず市民の広く知れるところ也。我が一文はただ助言にて、我が才によるところ、之皆無と言えり。

こどもにはちょっと難しい言葉で、泉下の提督が語っていますが、今日のゲストは昔の人なので勘弁してあげて下さい。
本土空襲の可能性はパールハーバーのずっと以前から、軍司令部が広報していました。1941年8月25日の朝日新聞「防空必勝の栞(上)」から引用します。仮名遣いや文字は、おじさんが現代風にアレンジしています。
近き将来、いずれかの国ともし戦うとすれば、わが国土が敵機の空襲下にさらされることは火を見るより明らかである。国民は、文句なしに敵弾の洗礼を受けることをまず覚悟しなければならない。(中略)以下は東部軍司令部防空参謀三十四中佐が語る、国民の一人一人が皆知すべき必勝の「防空訓」である。(引用おしまい)
本土は空襲される、覚悟しろと言っています。銃後の防空態勢を鼓舞しているのですが、「お前ら絶対に爆撃される」と軍に言われても太平洋戦争に突き進んだ当時の日本人って、みんながおかしな熱病にでもかかっていたのでしょうか。引き続き引用します。「空襲は必ずうける覚悟を決めよ」という物騒な見出しが付いています。
国家と国家の紛争を戦争に訴える以上は、いずれの国といえど国をあげてあらゆる科学、各種の戦争手段を動員、戦に勝つために死力をつくして攻撃してくることは自明の理である。現代の如く航空機が驚異的発展をとげ、爆撃機の如き爆弾を1トンも積載して1時間に300キロも400キロも飛び、数時間悠々と行動する時代に、四面環海で、しかも空襲威力圏内にある我が国が空襲から安全だと保障は絶対に出来ないのである。
(中略)既にして空中戦は陸上作戦や海上作戦と異なり、広大無辺の立体的な戦争であるから、実際問題としてすべての敵機を補足撃滅することはなかなか困難な問題というべく、希望と現実は一致しない。
(中略)すなわち陸海軍の防空に信頼するのあまり、空中作戦の本質まで没却して本土は空襲をうけずに済むものだと早合点するのは間違いである。(中略)現代戦は最高度の国家総力戦ではあるが、中心は武力戦であるから、国土を空襲して国民に精神的打撃を与えるとともに、戦争遂行上の物心両方面に一大痛棒を与えることは、もっとも有効な戦争方法であるから、一旦緩急の暁、我が国土に敵機の空襲をうけることは、戦争をする以上、免れ難い宿命だといわねばならぬ。(引用おしまい)
どの国も 戦争を始める時は、国民の生命を守るための自衛権を主張するものですが、この時点で、あろうことか戦争の目的のために国民は死ぬ覚悟をしろ、と論旨が本末転倒しています。
記事ではこの後、焼夷弾や爆弾の種類、空襲によって死ぬ確率などを並べたてています。それでも、対米戦にまい進した日本。国中によもや自分がやられる側に立つはずがないとの、恐怖心のマヒがあったのでしょうか。
山本五十六に再度登場願います。

吾人は唯々局地的短期戦略に携わりし木っ端軍人也。今さら吾人を偉人化するは危険にして、屋上屋を重ねるは、間もなく戦後70年を迎うにあたり、害あって利なし。
皇国の大戦に至りしその因を探りて、再び皇土に戦火が及ばぬ為の反省を視聴者に求むるが肝要なると、昭和の大君も願われたるとおもんぱからん。
何ゆえ幾多の臣民没せしかの元を民に啓蒙せしこそが、公共放送の使命と存ず。
よってこたびは、冥府よりの受信料納付をお控え申し上げる。
山本五十六