映画の主役はもちろんゴジラですが、人間側の主演は宝田明さん。現在80歳ですがお元気そうで何よりです。宝田さんは敗戦時小学生。戦争に振り回されたあげく、日本に引き揚げてきました。1982年9月16日の朝日新聞夕刊「新人国記‘82 外地」で当時の思い出を語っています。以下に引用します。
(前略)東宝ニューフェースの出身に、俳優でミュージカルの宝田明(48)がいる。朝鮮の清津で生まれ、ハルビンで終戦を迎えた。小学生の宝田は、ソ連兵の靴みがきをした。軍票より黒パンがほしかった。すぐ上の中学生の兄は、ソ連の強制使役に連れて行かれた。
「カボチャと交換で子どもを売った母親も見ましたよ。乳が出ないので、子どもが食べられるようにと渡したんでしょうかね。残留孤児の心の痛みはよくわかりますよ」
引き揚げた時、博多で軍靴1足と戦闘帽を一つもらい、小学校から中学半ばまで、それで学校に通った。学校では「大陸」というあだ名がついた。(引用おしまい)
それほど年の変わらない兄は、ソ連の強制労働に駆り出され、生まれてこのかた行ったことのない祖国にたどり着けば、小学生なのに軍靴一足で登校。着の身着のままで引き揚げたんでしょう。「大陸」というあだ名は、いじめではなかったのかな。
他にもつらいことを体験したり見たりしたのだと思います。もっと伝えてもらいたいけれど、それをしんどそうに語らないのが、昔から宝田さんの品のいいところ。お金をだまし取られたこともある苦労人です。
戦争と原水爆があってこそ生まれたゴジラです。日本がバカげた戦争をしなければ、核爆弾など存在しなければ、みんなもおじさんも大好きな怪獣王は出現しませんでした。複雑な気持ちになります。
この項、続きます。