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2014/05/20

自衛権くんと平和主義ちゃん

こないだ集団的自衛権のお話をしました。安倍総理大臣が行使する方針を発表した時に、「積極的平和主義」という言葉を持ち出しましたけど、これは何なのでしょう?
外務省のウェブサイトに説明がありました。日本を代表して外国とのお付き合いをするお役所だから、これが国の公式見解だよ。

(前略)日本として、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、同盟国である米国を始めとする関係国と連携しながら、地域及び国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に寄与していかなければならないとの国家安全保障の基本理念考えに基づくものです。

同盟国とは、軍事で同じ利害関係に成り立つ国同士の結びつきがある相手です。米国はお友達です。積極的平和主義では、中国や北朝鮮は友人ではありませんから連携することはありません。「安全保障」というのは、友達じゃない連中から国を守るためのやり方です。平和主義は日本と日本の友達のための平和であって、交友があんまりうまくいっていない国は除外されています。「関係国」という言葉は、その国々とも仲良くしたいんだよって言うために付け加えたごまかしのたわ言だと、おじさんは思います。
戦争する支度をする人たちは、どうして必ず平和主義を付け加えて語るのでしょう。政治家の言葉ではしょっちゅう、自衛権くんと平和主義ちゃんが仲良しです。
1941年2月21日の朝日新聞に、インドシナ半島に日本軍が進出したことを気にしているイギリスに対して、ドイツ・イタリアとの三国軍事同盟を主導した松岡洋右外務大臣外務大臣が出した声明がありました。引用します。丸カッコ内はおじさんの口語訳です。

一、帝国の念願とするところは世界平和の回復であり、三国同盟の主なる目的の一つは欧州戦争に新たな第三国の参戦することを予防するとともに、可及的速やかに終熄せしめんとするものである。
(日本は平和第一。そのためにドイツのヒトラーやイタリアのムッソリーニと同盟を結んだ。ヨーロッパでの戦争を早く終わらせたいんだ)
二、従って全世界を禍乱から救ひ、現代文明の崩壊を防止するためには、帝国はいづれの国たりとも平和回復を願うものあらば進んで調停のため労をとる用意がある。

(日本は世界の救世主。対話のドアは開かれている)
三、かくの如く帝国政府の意図するところはあくまで平和的のもので、泰・仏印の紛争調停も一つの現れであり、他国民の運命を支配せんとするが如き意思は毛頭なく、平和と恵沢と互助による新時代を招来せんとするものである。
(平和主義の日本が軍隊を東南アジアに進駐させたのは、タイとフランス植民地インドシナのもめ事を仲介するため。あくまで積極的平和主義なんだよ)
四、かるが故に最近の「極東の危機説」のごとく最近東亜の情勢に関して英国が異常の憂慮抱くはむしろ諒解に苦しむところである。
(イギリスは日本軍が東南アジアに入り込んだことをなぜ心配するの?)
五、しかし英国政府が太平洋及び南洋方面においていかにも緊急事態あるかの如き予想の下にこれに対慮する軍備を整え又これがため各般の工作をなす時は日本としても自然これに備えるの策を必要とするに至るわけでありむしろ英国政府の慎重なる態度こそ望ましい。
(英国が日本軍を気にして介入してきたら許さないぞ。自衛権を行使するからな。よく考えろ)

声明には朝日新聞記者の解説が付いています。「右の如く松岡外相のメッセーヂは日本の平和的意図を明か(ママ)にするとともにわが自衛権については帝国政府の毅然たる態度を含蓄せしめたものである」

戦争できる「自衛権」をアピールする時は、平和主義が背景にあった方が格好がつくのかもね。安倍さんは演説が上手なので、「わが自衛権については政府の毅然たる態度を明らかにするとともに平和的意図を含蓄せしめた」ように聞こえました。