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2014/08/26

アッテンボロー、「失敗作」に込めた思い

おじさんが大好きな映画「大脱走」(The Great Escape)のバートレット少佐、リチャード・アッテンボロー(Richard Attenborough)が亡くなりました。先月、ジェームズ・ガーナー(James Garner)が世を去ったばかり。もはや作中の生存兵は、デビッド・マッカラム(David McCallum)くらいか。さびしいなあ。
アッテンボローは監督としても著名で、「ガンジー」(Gandhi)でアカデミー賞を得ていますが、その6年前、1977年には戦争大作「遠すぎた橋」(A bridge too far)が公開されています。
連合軍によるオランダ侵攻作戦が舞台。無謀な立案と用兵で、大勢の死傷者を出した壮絶な負け戦を、オールスター出演の壮大なスケールで描こうとしたわけです。
落下傘部隊の降下シーンなど、豪華な見どころはありましたけど、上映3時間は長い。何だか死人がやたら出るんだけど、臨場感がない。ドンパチ期待して映画館に足を運んだ少年時代のおじさん、居眠りしてしまいました。少なくとも日本では興行的に失敗した記憶があります(「スクリーン」誌にそう書いてあったのかな)。
アッテンボローが映画の宣伝に来日した当時のインタビューが、1977年6月15日の朝日新聞にありました。以下に引用します。
(前略)1923年生まれの同(注・アッテンボロー)監督は第二次大戦末期、英空軍の映画班として爆撃に参加した経験を持つ。「飛行機にカメラを積んで目標を撮り、爆撃後もう一度撮る。爆撃後はひどい惨状だった。戦争がいかに時間と労力の損失かということを学んだ」という。こうした体験から「あらゆる努力をして若い人たちに、戦争とはどういうものかを教えるのがわれわれの責任だと感じている(中略)」と。
今度の映画も同監督と同じ英国のモントゴメリー将軍(Bernard Montgomery)の作戦の失敗を扱い、戦争のむなしさやバカらしさ、軍人に対する皮肉が随所に出ている。その点で“反戦映画”という見方もできるだろう。(中略)監督は半ば冗談のように、モントゴメリー将軍の“マ作戦”(注・オランダ侵攻)が成功してれば、自分もルールの工業地帯を爆撃しなくてすんだろう、といった。「でも5年間も戦争が続いてて、この作戦が成功すればあと2、3カ月で終わる、となればだれでも飛びつく。しかし今となっては冷静な批判をすることが必要だと思う」
映画のラストには少年が軍隊式をまねて歩くシーンが出てくる。「子どもというのは兵隊ごっこが好きなものだ。次々に出てくる新しい世代には、戦争が文明に対する冒とくだということを毎回毎回いわなければならない」(引用おしまい) 
 自国の失敗を反省し、嗤い、後世に伝える作家がいる映画業界は健全です。真珠湾を描いた、かつての「トラ・トラ・トラ!」しかり。当時の日本人はほとんど、米国側の意図がわからずに、銀幕の連合艦隊にただ拍手してたけどね。今どき特攻賛美ムービー作ってる国は、永遠の学習能力ゼロです。
あと2、3カ月で終わる、となればだれでも飛びつく。しかし今となっては冷静な批判をすることが必要だ」との言は、米国民への原爆投下の是非の議論にもつながるでしょう。
さて、日本が兵隊ごっこ好きのコドモだらけになったら困りますね。コドモが親の七光りか何かで間違って偉くなっちゃ、さらにコトだよ。この国はただでさえ好戦的な年寄りが多すぎて、持て余してるんだから。
こどものころ、「遠すぎた橋」を退屈だと断じたおじさんと、アッテンボローの思いにはズレがあったようです。文明への冒とくについて毎回毎回いうためには、「遠すぎた橋」をDVDで見直さなければね。遅すぎた恥を繰り返してはならない。