前項からの続きです。
日本音楽の啓蒙深化こそが戦争勝利への一本道だと盲信する音楽学者・田辺尚雄は、遂には西洋文化自体を害毒であると斬って捨てます。バックには大政翼賛のお上が付いていて、こわいものなしです。1943年1月16日の朝日新聞から引き続き引用します。太字挿入はおじさんによります。
真の大国民といふのは、自国の偉大なる文化の魂を十分知悉(ちしつ)して、然る後に世界の文化の中の毒素を捨てて、その滋養素だけを摂取することの出来る国民をいふのである。自国の文化も満足に知らないで、それで大国民を論ずる資格は絶対にない。自国の文化は種子であり、外来の文化は単に肥料に過ぎない。(とりあえず引用おしまい)
「日本の文化は世界一ィィィ!」。皇国主体の大東亜共栄圏教化に近いね。日本音楽の素晴らしさを例示してくれたら説得力があったろうに。ネット掲示板によくある、アレな書き込みのようです。後段を引用します。
それは米英の音楽も毒素を斥けて(しりぞけて)、滋養素は取り入れても差支へない(ママ)ではないかと論ずる人もあるかも知れない。第一に現時の米英の音楽に何一つ滋養素があるか。かのジャズの如き、全部悉く(ことごとく)毒素であつたことは、その影響を受けた全世界の現状を見ても判る。そのために何一つ人間の徳が向上したか。どれ程人間がそのために神に近づいたか。徳も崇まらず(あがまらず)、神にも近づき得ないやうな音楽を、崇拝してやらなくてはならぬ必要が何処にあるか。
少くとも(ママ)日本人はそんな音楽は嫌ひである筈(はず)である。我々は娯しみ(たのしみ)ながら徳を崇めるやうな凡ゆる(あらゆる)芸術を善いものとして崇めてゐるのである。単に眼前だけ面白くありさへすれば、それで娯楽になり、慰安になると考へるのは、奴隷の仕事か、動物以外にはない。(引用おしまい)
ジャズをオール・ザッツ・毒素であると断じるには「全部悉く」聴いてからというのが筋です。まあ、レコードへろくに針も落としてないでしょう。音曲といえば軍歌しか知らぬ軍人が流すトンチンカンな浮説の尻馬に、専門家が乗っかった。
「人間が神に近づく」くだりも、残念ながらさっぱりわかりません。田辺は西洋文化が大嫌いですから、キリスト教の神ではない。もちろんムスリムでもありません。当時の日本には昭和天皇という現人神(あらひとがみ)がいましたが、まさかそっちへ近づきたいと考えるはずもない。神道の神様でもないでしょうね。この文章、いったい何なの?
自粛とそれに続く規制の雰囲気醸成が、この手の全体主義文化奴隷仕事を増産させるのだとおじさんは懸念します。こんなアホなゴタクがまかり通る時代がやってくるのは、二度とごめんです。
あえて卑語を使えば、たかだか歌うたいの違法薬物使用ぐらいで、ユニバーサルミュージックは市場から作品を閉め出すようなまねをやめて、堂々と売るべきです。迷わずにSAY YES?