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2014/06/10

プロジェクトX〜巨大権力からNHKを守れ!(1)

企業や法人組織には時々、まったくの別業種だった人や役人が、突然社長になってしまう大人の論理が働くことがあります。その世界をよく勉強していて、うまくかじ取りができる社長さんならいいけど、筋違いのことを言ったりしたりして、会社の信用を失わせる困ったおじいちゃんもいます。そんな人に限って、背後に隠れた何者かの見えない力をアテにして組織を壊してしまいます。
今日は、役人出身のトンチンカンな会長から、日本放送協会(NHK)の存在意義と価値を全力で守った、名もなき男女たちの闘いの物語を紹介します。「プロジェクトX〜言論を死守せよ」、始まるよ。

1976年8月、飛行機受注をめぐる贈収賄疑獄ロッキード事件で逮捕、起訴された後に保釈された前首相田中角栄の私邸に、NHK会長小野吉郎が見舞に訪れました。日本を代表する報道機関のトップが、巨額贈収賄事件主役のご機嫌うかがいに行ったのです。大騒ぎになって、小野会長は、衆議院の事件調査特別委員会に召喚されました。この月26日の朝日新聞夕刊から引用します。

(前略)小野会長は「純然たる個人としての見舞いのつもりで、NHKとはかかわりない。しかしNHKの性格に照らし疑惑、誤解を招いたのは不用意、軽率だったと深く反省している。厳正中立の立場を守ることにかわりはない」と頭を下げた。(引用おしまい)

小野会長は郵政省で一番偉い事務次官だった人です。その時の郵政大臣が田中角栄。NHKの会長になったのも、田中のおかげでしょう。でも、いくら「個人的見解」でも報道機関の会長が大事件の被告の家にあいさつに行くのは非常識だよね。案の定、NHKは炎上状態になりました。朝日9月1日付から引用します。

NHKの小野吉郎会長が保釈直後の田中角栄前首相を「個人として」東京・目白台の自宅に訪問した(24日)ことで、NHK内部では会長追及の動きが広がっている。
「今回の小野氏の行動は、NHK報道の信頼性をいちじるしく傷つけた。小野氏は会長としてふさわしくないことが明らかになった」。東京ニュースセンターの政治、経済、社会部など、報道の一線に立つ七つの部が31日午後7時半から合同で職場集会を開き、協会側に突きつけた決議文だ。集会には、放送記者ら150人が参加した。管理職の親ぼく団体である「部課長会」でも、有志の間で「行動を起こすべきだ」との動きが始まっている。
NHKはいま、大規模な異動の時期。30日夕には社会部が都内のホテルで送別会を開いたが、この問題で持ちきりで、小野会長あてに「貴殿はNHKへの信頼をそこなった」と、辞任を求める文書をまとめ、一般の部員全員が署名した、という。(後略、引用おしまい)

NHK記者全員のジャーナリスト魂に火が着いてしまいました。「個人的見解」で顔をつぶされたんだから当然だよね。今でももし、こんな変な「個人的見解」を振り回すトップがいたら、NHKの記者たちは怒り狂って同様の行動を取るに決まっています。決まっているよね。
この項、続きます