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2014/10/29

マッサン=ごちそうさん=駄作(1)

ミステリ作家の故横溝正史が、もし「マッサン」を見ていたら……。

連続テレビ小説のような特殊な作品、チャンネルは合わせっぱなし、高視聴率確実なところから、他局の羨望を集めるこのドラマで、もしも事件が起こったら、視聴者がどのように手を焼くか、それは思いなかばに過ぎることがあるだろう。 
ところが、そこに事件が起こったのである!
しかも、ああ、それはなんという恐ろしい事件だったろうか。まことにそれこそ昨今の朝ドラの名にふさわしい、なんともいいようのないほど、異様な、無気味な、そしてまた不可能とさえ思われるほど、恐ろしい事件の連続だったのである。
しかし、これを読まれる諸君が早合点をしてはいけないから、ここに一応ことわっておくが、「マッサン」とて絶海の一駄作ではないのである。(「獄門島」より改作)

ああ、なんということであろうか。「マッサン」は残念ながら、ついに駄作認定せねばならぬ段階に来ました。
主人公は思うままに事が運ばないと朝から頭髪をかきむしり、やたら怒声を挙げながら机をたたく、やおら箸を振り回す、泥酔する、愛妻に外国人差別発言をかます、ヤカラのごとき茶の間の嫌キャラ。
主人公が嫌われ者で、その配偶者は役立たず。脇役は物語に貢献せず尺つぶしに終始。さらには飲食物への食塩大量投下……。
何かに似ています。横溝正史風に言うなら、賢明なる視聴者諸君なら既にお気付きであろう。そう、世紀の大駄作「ごちそうさん」です。名探偵金田一耕助でも手こずる、大阪惨劇の連鎖。
本筋に関係ない、一見良さげなアン雪的「ありのままのあなたでいて」のセリフ(マッサン=和尚、ごち=夫)まで同じです。堤真一さんがキムラ緑子さん並みに孤軍奮闘しているのもシンクロニシティ。
両作に一貫するのは、登場人物への愛情と、尊厳意識の欠如でしょう。特に今やってる方は、ニッカウ㐄スキー創業者夫妻というモデルが存在するのに、この始末です。
今日は1966年の朝ドラ「おはなはん」の下敷きだった林ハナの訃報を紹介します。同作は、大ブームを巻き起こし、映画(岩下志麻主演、野村芳太郎監督)、小説、明治座の舞台にもなって、いずれもヒット。NHKには、死去する夫役を殺すなと、投書が殺到しました。1981年7月1日付の朝日新聞「『おはなはん』白寿の死」から引用します。
昭和41年から1年間(注・当時の朝ドラは1年単位)放送されたNHKの朝のテレビ小説「おはなはん」のモデルとして知られる林ハナさんが亡くなった。東京都渋谷区のセントラル病院に老衰のため入院中、6月12日午前8時30分静かに息を引き取ったもので、99歳の白寿だった。家族は昨年11月に、ハナさんの長男で「おはなはん」の原作者でもある、随筆家林謙一氏が亡くなったばかりで「また、世間さまを騒がせては申し訳ない」と、外部には知らせず、13日に近親者だけの葬儀を済ませていた。(引用おしまい)
放映15年後の死去です。脚本執筆、番組放送時に健在だから、制作サイドが好き勝手にその人生を書き換える幅にバイアスがかかります。
「ゲゲゲの女房」水木しげる夫妻の面白すぎる半生もそうです。「カーネーション」小篠綾子は故人でしたが、娘たちが現役バリバリ。お手軽にストーリーを破綻させられません。
児童文学作家の著作や企業の商品が売れるから、題材として「取り上げてやる」なんておごりが東西ともにありませんか?
「おはなはん」の現場には、モデルである林ハナへの敬意があったようです。次項で紹介します。ああ、なんというドラマであろうか。