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2014/09/30

マッサンと竹鶴政孝の違い(2)

毎朝ドラマ寄席の時間です。マッサンコント「摂津酒造の番頭はんと丁稚どん」をお楽しみ下さい。

丁:番頭はん、えらいこっちゃ! ウチから英国に洋酒の修業に出したガキが寝返りよった。実家の酒屋継ぐんやて。
番:なんやと! 旅費と学費とで、会社がナンボ出した思てけつかんねん。社長に言うて損害賠償訴訟や! ごっつい額、請求したれ。
丁:あきません。あの家、すってんてんですがな。今朝も嫁はんに女もんの着物着せて、ガイジンはおっきいよって、日本人規格の和服は短ぁて合わへんがな、いう小ネタやってましてんけどな。ようよう見たら嫁より妹の方が背ぇ高いんですわ。成長した娘の着物も買えへんほど傾いてまっせ。

前項からの続きです。何度も断りますが、キャラクターの創造は、作家の裁量に任せられるべきであるというのが大前提です。ただし、モデルが存在する以上、劇中の人物がそれから大きく外れることがあってはならない。視聴者は村岡花子で学習済みです。
今後の展開を期待する上で、拡販より品質に重きを置くニッカウ㐄スキーの職人社長、竹鶴政孝の経営学を頭に入れておく必要があります。
引き続き、1964年3月29日の朝日新聞「私の体験」から、竹鶴の談を引用します。仮名遣いはおじさんが現代風に改めています。
私は品質第一主義で、もうかるより味をほめてもらう方がうれしい。私は2級ウイスキーの売り出しに大反対だった。自分が自信を持って出す品に等級をつけるのはおかしい。しかも2級には原酒を一定量以上入れてはいけないと法律で決められている(注・当時は国がお酒に等級を付けて製法まで厳しく管理していました)。政府の酒税政策のために、私としては不本意な製品を出しているわけだ。また品質を理解してくれる問屋さん以外には売ってもらいたくないので、卸問屋は厳選しており、全国で370店しかない。この数はふやさないのが原則だ。
品質主義だからハデな経営はしない。創業以来、いくら利益が出ても配当は1割しか出していない。内部留保を厚くして、工場設備の充実をはかる。それに社長の私が技術畑だから思い切った設備投資ができるわけだ。広告も年間20%の需要増に見合うだけしかやらない。
こうした気風だから、社員も心からいい酒造りに専念するよう訓練されてきた。しかし、それだけではどうしても家族主義的になる。しかも会社が大きくなると、人間関係も複雑になる。そこで私は、社員に労働組合をつくることをすすめた。またボーナスもいまでは生活給の一部だから、私はこれを普通と特別の二つに分けた。普通ボーナスは会社の成績にかかわらず給料の2カ月分。これは年々ベースアップで上がっていく。これに、社の成績によって出すのが特別ボーナスで、二つをプラスしたものがわが社のボーナスだ。しかし株主には1割の配当しか出さない。(引用おしまい)
今どきなら、株主配当1割は超優良企業ですがねえ。竹鶴の口調だと、昔はシブチン会社に分類されていたようですね。
品質管理のためには出荷制限をする、問屋の数も絞る、国の政策にも噛みつく。それが竹鶴政孝の哲学。こんな経営者は平成の世に現れ得ない。生き残れません。だからこそ、今描く価値があるのではないでしょうか。
ニッカは現在、アサヒビールの完全子会社です。ニッカブランドの缶ウイスキー商品が全国のコンビニに並んでいます。出荷量、問屋の質まで気にした竹鶴が目指したニッカではありません。その是非はおくとしても、もはや目にすることのかなわぬ、竹鶴が追い求めた昭和のウイスキー造りの精神を映像に具現化せずして、何が故の国民的歴史ドラマであろうか。
玉山鉄二さん、シャーロット・ケイト・フォックス(Charlotte Kate Fox)さん、ともに魅力的なお芝居をしています。後は制作の覚悟次第。踏ん張れ、朝ドラ! 前を向け、NHK!