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2014/09/21

白虹、朝日を貫けり(1)

京都国立博物館の展覧会「京(みやこ)へのいざない」に行ってきました。
これまで写真でしか見たことがなかった国宝「源頼朝像」を間近に拝覧すると、その美しさと力強さに打たれます。他にも平安時代の仏像や仏画、いわんや見事な縄文式土器を見るにつけ、果たして人類の文化文明はそこから進歩しているのだろうか、と沈思してしまいましたよ。
さて、朝日新聞社がとんでもないことになっています。日本のマスメディアは着実な進歩を遂げているのかを、百年ほど前に同社を襲った言論弾圧事件「白虹事件(はっこうじけん)」から考えてみます。
1918年、米価の急騰に対して全国で抗議行動が起こり、一部は打ち壊しなどの食糧暴動に発展します。米騒動と呼ばれます。シベリア出兵というロシア革命への干渉もあいまって、政府批判の声が高まります。大阪朝日新聞は、時の寺内正毅内閣攻撃の急先鋒でした。
寺内内閣は現在の安倍晋三内閣と酷似しています。米騒動への無策は、急激な円安による庶民のエネルギー・原材料価格負担と同じ。ともに非立憲主義・議会軽視の超然内閣である点は、シベリア出兵と集団的自衛権行使がそれぞれ閣議決定されたことでも明らかです。寺内内閣閣僚のほとんどは、元老山県有朋系でした。安倍内閣の場合、「山県」を「日本会議(ウルトラ保守集団)」に置き換えるとピタリとはまります。
寺内政権にとって、大阪朝日は何としても叩き潰したい目の上のたんこぶ。そこに朝日側が失策の筆禍事件を起こしました。どこかで聞いたような話ですね。
8月25日、関西の新聞・通信社86社166人が大阪ホテルに集い、内閣弾劾の集会を開きました。各社の代表者が次々に壇上から政府をなじる演説の様子を、大阪朝日の大西利夫が記事にします。
26日(発行は25日)の大阪朝日新聞夕刊「寺内内閣の暴政を責め猛然と弾劾を決議した関西記者大会の痛切なる攻撃演説」から引用します。仮名遣いや句読点など、おじさんが現代風に改めています。
(前略)十数名の口を開く所、内閣の暴政をののしらざるはない舌端火を発する熱弁は、彼らをしてついに気死(注・憤死)せしめずんばやまざるの慨を示した。
終わって食堂の開かれたるは1時に近い頃であった。食卓に就いた来会者の人々は肉の味、酒の香に落ちつくことが出来なかった。金甌無欠(注・欠点が無いこと)の誇りを持った我が大日本帝国は最後の裁判(さばき)の日に近づいているのではなかろうか。「白虹日を貫けり」と昔の人がつぶやいた不吉な兆しが、黙々と肉叉(フォーク)を動かしている人々の頭に雷のように閃く。(引用おしまい)
大西の筆がすべりました。「白虹日を貫く」とは、謀反・クーデターの類を指す故事成語で、日本では天皇に矛を向ける意味に取られかねません。当然、検閲官の目に留まり大問題になりました。
右翼団体の構成員は、村山龍平社長を襲撃するテロを敢行、内相後藤新平は右翼系雑誌に反朝日キャンペーンを張らせ、売れると踏んだ他誌もそれに追随します。不買運動も起きました。現況はますます百年前と似ているぞ。
検察は大西と編集人の山口信雄を、新聞紙法の「安寧秩序を乱しまたは風俗を害する事項を掲載」した罪で起訴。大阪朝日新聞には発行禁止処分が下りるおそれが出てきました。大ピンチの大阪朝日新聞。この項、続きます