コピー禁止

2019/09/10

週刊ポスト・ゴミグラビアの先に見る落陽

商品になっていない今週号

何だよ断韓やめちまったのか、ダンカン。
伝統ある小学館が誇る「週刊ポスト」がヘイトあおり運転に車線変更したから、9日発売号を楽しみにしていたんですけどね。個人的にも、ガキの時分には「幼稚園」から「小学六年生」まで取り続けて、世の中の常識を教えてもらった名門出版社が、今度はどんな人生の知恵や常識を与えてくれるのか心待ちにしていました。
「晋三、君と小学館は同じゴールを見ている。断韓まで、晋三。2人の力で駆けて駆けて駆け抜けよう」って感じの前のめりなノリだったから、“10人に1人がビョーキ”らしい韓国人を憎悪することが、いかなる美徳であるか、教えてほしかったんです。かつて自分が学習雑誌からいろいろと学ばせてもらったようにね。
ところが中身が無い。皆無、空虚、無意味。カビの生えた昔の週刊誌を切り貼りして並べたような、断韓でも嫌韓でも、もちろん親韓のメッセージでもない活字の羅列でした。こんなコミケのサークルカタログに載せるのも恥ずかしいレベルの紙束ごときで、カネ稼ごうなんておそれ多いよ。

汚いビキニ、見えないヌード

今週号には他にも、週刊ポストの無気力編集が痛いほど伝わる企画がありました。水着グラビアです。
1970〜1980年代に「激写」といわれて一大ブームを起こした「GORO」の時代に撮影された、懐かしタレントのセクシーショットをページを割いて掲載しているんですが、なにしろ画が汚い。あまりの発色の悪さや色飛びに、最初は終戦直後のカストリ雑誌からひっぺがした仙花紙でも使っているのかと思いました。どうやらフィルムが劣化していたんですね。
ネット情報ですが、デジカメ以前のフィルムは、保存環境次第で酢酸やガスが出て劣化するんだそうです。解説の入った修復業者のウェブサイトがたくさんありますから、そうした需要もあるのでしょう。
大事な読者におカネを払っていただく商品を編集するのであれば、なぜ修復を試みる手間を省いて劣化版を載せてしまうのか? コストをケチったか、読者への配慮が回らなかったのか、その両方か。いずれにせよ、お粗末です。読者様、お客様は全員が「死ぬまでセックス」なんて、くだらない企画だけを毎週心待ちにしている色ボケジジイぞろいだとでも思っているのでしょうか。週刊ポストの落日がグラビアから感じ取れます。後半部の50年分のセクシーショット特集も、クソも味噌も詰め込んだせいで、写真も文字も小さくて、ターゲットの年寄りは、さぞ読むのに難儀するでしょう。お客様への気配りができていません。

松竹歌劇団の教訓

メディアが衰退をたどる時にまま見られるのが、はき違えた節約、勘違いしたリストラです。今日は大正時代からの伝統を誇った、浅草の華・松竹歌劇団(SKD)が解散に向かっていく途中のターニングポイントとなった、観客サービスのカットの事例を紹介します。
1975年6月26日付の読売新聞「夏のおどり(SKD) バンドが消えた」より引用します。年号は昭和です。
25日から始まった東京・浅草国際劇場の「夏のおどり」で、これまで付きものだったオーケストラ・ボックスの生演奏が姿を消し、伴奏音楽はすべて録音テープにとってかわった。昭和3年、浅草にレビューの灯がともって47年、初の“珍事”だが、これは、同劇場経営の松竹が人件費節減のため伴奏を続けてきた楽団と手を切ったためで、職を奪われた楽団員たちは「不当解雇撤回」を叫んで、オーケストラ・ボックスならぬ国際劇場前で抗議の生演奏を続けていた。
初日の25日の舞台。オーケストラ・ボックスは閉じられ、踊るような指揮棒の“姿”は見られない。ボリュームいっぱいのテープ伴奏で幕があいた。
「楽団があって踊りがあるんで、さびしいわね。ただ、生演奏にこしたことはないんでしょうが、会社側にも事情があるようですから」と、41年入団の19期生、富士輝子さんは、肩をすくめる。舞台を見にきたSKD1期生のA子さん(42)の口調は、もう少し厳しい。
「テープだけというのは絶対反対よ。バンドがないと盛り上がり方が違いますよ。それにバンドの人たちとも昔なじみだし、気の毒だわ」と、いかにも情けないという表情だった。
ファンの方も、「生演奏のないレビューなんて」とシラけた様子。浅草に住み、SKDのショーは欠かさず見に来るという主婦の大川桃江さん(35)は、子供の手を引きながら「そりゃあ生演奏がいいわよ。劇場には、それも見にくるんですからね。テープ演奏だけなら、テレビや映画を見てるのと変わらないわ」と手厳しい。杉並区の主婦、小川やす子さん(41)も、「主人の仕事の関係で外国人のお客さんを招待するんですが、がっかり」といっていた。
松竹側は「テープだと一流バンドの質の高い演奏で踊れる」というが、楽団員は、団歴22年の佐藤和助さん(51)を中心に楽団を解散せず、劇場側と団交を続けている。(引用おしまい)
楽団員たちとの長年の雇用関係を解消して、目先の節約に走ったSKD。生演奏とカラオケではお客の満足度が違うのは歴然です。人気低迷は止まらず、1982年にはホームである国際劇場公演を失い、1996年には解散の憂き目を見ました。安易な隣国叩きや劣化フィルム起こしのグラビアも同じですね。
水の江瀧子を筆頭に、草笛光子、倍賞千恵子・美津子姉妹らキラ星のようなスターを生み出したSKDの終焉はあっけなく、さびしいものでした。50年の歴史をうたう週刊ポストの落陽がSKDと違うのは、その衰亡を惜しむ声が聞こえてこないところです。
さようなら、週刊ポスト。