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2016/04/02

ダサいバイクメーカーは女心をとらえるか

このところ1989年東京モーターショーのyoutube動画にハマっています。日本中がバブル景気に浮かれまくっていたころ。居並ぶトヨタ・セルシオ、日産インフィニティ、ホンダ・NSX、マツダ・ユーノスコスモなどの高級車の脇では、スタイリッシュな衣装に身を包んだコンパニオンたちが華を添えています。モータリゼーションと女性ファッションに夢があった時代でした。
夢にも種類があって、悪夢というのもあります。会場で繰り広げられた日本のオートバイメーカー4社コンパニオンの服装バトルは、まさにナイトメアと呼ぶべき代物でした。
ホンダはトップ企業だけあって、他社を圧倒する人数の女性を投入したようです。ところが、台所用アルミ箔を貼りつけたようなシルバーのダッサい衣装を着せられた彼女らはステージのバイクたちを引き立てんと、当時流行りのフュージョンミュージックに合わせ、けったいなダンスを強制されていました。何かの罰ゲームを見せつけられているかのようです。
ヤマハブースの女性はもっと悲惨。コンセプトマシン「モルフォ」の隣に立たされた女性は、金ピカの蝶形の板をマジンガーZみたいに胸に装着、ウルトラセブンの頭のごときヘルメットをかぶらされています。まるで故曽我町子が特撮戦隊シリーズで着ていたファンタジー悪役コレクション。いじめですか。
漢カワサキに至ると、そもそも女性ファッションなんかへの気配りゼロです。コンパニオンのグリーンスカートのすそは、はじめ人間ゴンの母ちゃんのようにギザギザ。その上にゼブラ柄のトップスをまとうワイルド仕様という、ナゾのギャートルズ・コンセプトでした。明石工場製を押し出す“明石原人”アピールだったんですかね。
バブル期にもケチだったコスト意識の高いスズキは奇をてらわず、落ち着いた中小企業事務員風のジミジミ洋装。メーカー色を出せばいいので、レーシングカラーの青白か、オフレーサー系の黄黒にすれば格好がつきます。映像では、イエローのインナーにブルーの上着。なぜだ? なぜ青黄の組み合わせなんだ?
スズキの笑いどころは他にあって、軽二輪にもかかわらず70万円近い売価を付けた絶対の自信作「SW-1」の前を、入場者がだれ一人足を止めることなく通りすぎていくシーンは爆笑必至。この反応を分析していれば、この営業失敗作を実売せずに済んだのに。マニアは「これを売らなきゃスズキじゃない」と言うかもしれませんけど。

1980年代にほうはいと沸き起こったバイクブームは、大勢の女性ライダーを生みました。鈴鹿の8時間耐久レースにも、ヤマハTZRやカワサキGPXにまたがったギャル集団が詰めかけたものです。その流行に対し、メーカーが取った女性顧客獲得策といえば、ホンダによるピンク車体のVT250、カワサキのGPZ250Rの桃色シートなど、傍観者が赤面する愚策の山でした。ファンシーなカラーリング、とりあえず低めて足付きを良くしたシートなんてのは、消費者に媚びる最低のアプローチ。
ダサい。4社あまねくダサい。結局、あのブームはメーカーの功績ではなく、周辺が創り出したカルチャーだったのではないかと思えてしまいます。
女性への工夫に欠けるのは最近も同じ。市場の縮小が続く現状であればこそ、回復への努力無くしてモーターサイクル製造業に未来はありません。
いくら商品が面白くても、ヤマハVMAXとかスズキB-KINGみたいなマガマガしい車種をギャルにアピールしろとは申しませんよ。自動二輪車を所有する文化をトータルで突き詰める必要性を訴えます。
かつて女性を自社製品のターゲットにせんと目論んだメーカーがありました。業界のリーディングカンパニー本田技研は、バブル以前に女性ライダーへのアンケート調査を実施、新たな消費者像を探りました。1984年12月18日付の朝日新聞「オートバイはファッション!?」から引用します。
(前略)アンケート対象者は女性ライダー237人、一般女性321人の計558人で、10代、20代が中心。
それによると、「どういう女性がオートバイに乗るか」というと、事務員33.3%、主婦10.1%、学生8%の順で、OLが圧倒的にトップ。例えば3人姉妹(兄弟)の場合、長子、第2子がそれぞれ28.8%なのに対し、末っ子が40%と、「末っ子ほどオートバイ好き」の傾向。自動二輪免許を取得した平均年齢は20.85歳で、きっかけは「恋人の影響」が19.8%で断トツ。しかし、ツーリングは「自分1人」(35%)が多く、「男友達と」(11.4%)「恋人と」(11%)は意外と少ない。
「オートバイに乗る時、どこをアピール」するかといえば、「髪を長く」(34.2%)し、「オートバイとファッションをトータルコーディネート」(同)する。「好きな色」は赤、青、黒に人気があり、ピンク、白、黒の一般女性とは対照的。また、「オートバイに乗っている時、どこに視線を感じるか」は、「ヘルメットを脱ぐ瞬間のしぐさ」(36.3%)が最も多く、一般女性の「顔」(44.9%)とはきわ立った違いを見せている。
一方、「女性ライダーを動物」にたとえると、自分は「ネコ」「シカ」「リス」とかわいらしいが、「ファミリーバイクに乗る主婦」は「ブタ」「タヌキ」「カバ」と手きびしく、“うぬぼれ”も相当なもの。交通安全についても実に95.8%が、乗用車やトラックなどの幅寄せ(走行妨害)や無理な追い越しに「ハッとした体験」を持ち、「追い越し返し」たり、「競争して進路妨害をする」から、くれぐれもご用心。(引用おしまい)
末っ子だとか、バイクに乗る自分が「リス」だとか、スクーター女性が「ブタ」だとか、無駄な情報が多いんですが、考慮に入れるべき普遍的項目もあります。購入者が好む車体色は、未購入者とまったく異なります。実際に自腹を切ったユーザーは、ギャルギャルしいピンクのファンシーマシンなんかほしがっていません。自分が乗っているバイクの車格・見栄えを意識しがちな野郎どもと違い、女性の方は乗車している自分に注目してほしいと願っていることが調査から読み取れます。フィメールライダーはバイクに乗っている私を見てもらいたい人種なのです。
今後メーカーが努めるべきことは何か。ヘルメットを含めた洗練されたアパレル等の開発となりましょう。まったくの門外漢であるファッションセンスを他社に頼り、そこに自社が積み重ねてきた安全技術のノウハウを加える。いずれそれら別業態からの車体デザインやカラーへの意見を享受できる関係を構築できるようになって、市場の活性化につながれば理想的です。
最初に自覚すべきは「我が社はダサい」との認識。女こどもにはスクーター売りつけておけばいい、といった商売は、1980年代の本格バイク女子が嫌った「ブタの再生産」にすぎません。地球の人口の半分は女性です。空白の市場に殴りこむ気概が求められます。