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2015/04/01

2015年・東京モーターサイクルショー(1)

押し寄せる人波にさらわれかねぬ 覚悟の上で足を運んだ東京モーターサイクルショー。
想像していたより、客も出展者も少なかった印象です。巷間伝えられる通り、オートバイ離れが進んでいるのかな。
機器の進歩めざましく、ワイヤレスインカムでヘルメットの中にステキな音楽が流れますよって商品がありました。スゲーッ、じゃなくて、運転中の重要な安全確認情報源である聴覚を潰すようなモノ出さんといてくれ。
かつては高嶺の花だったフリップアップ・ヘルメットもじゃんじゃん展示されています。フルフェイスなんだけど、アゴの部分がネジ止めしてあって、そこをハネ上げることができる快適メット。
アライヘルメットのブースで説明員さんに、なんで御社は作らないの?と質問しました。衝突時の顎部安全性を担保できないので生産しないんだそうです。
この愚直なこだわりがあってこそのアライ。長年愛用している製品の製造元から、納得のいくポリシーを拝聴できるとうれしいものです。もっとも、一般のフリップアップ・ヘルメットの大方は、衝突安全基準を満たしているのですからそんなに危険なわけではないでしょう。上記の意見はアライのものです。選択は消費者の嗜好に任されるべきものです。
こじんまりとしたブースの黒い壁に、切った貼ったの手づくり感満点な真紅の片仮名ディスプレイ、「コミネマン」が目に飛び込んできました。ライディング総合用品メーカーコミネです。
安価かつ高品質のウェアやグローブ等々を販売する同社。ここのプロテクターをおじさんも使っています。
カタログが欲しかったら住所、氏名、年齢、メールアドレスその他を用紙に書き込めという、個人情報コジキメーカーの大量発生が目に余る今回のショーにあって、分厚いパンフレットをその場でほいほい配布。コミネにはキャンギャルなんていません。社員さんがせっせと、ガール要らずの庶民ライダーに対応します。
カタログを見て感じたのは、無駄な装飾的ラインナップがないこと。コミネにせよアライにしても、余計なモノはつくらない態度に好感が持てました。
モーターサイクルは、一般にキケンな乗り物だと認識されがちです。少子化が進み、このままではハードウェア購買力が今後とも減退していくであろうギョーカイは、もっと交通安全産業を表に出していく点が肝要だと考えますが、直接のデカい儲けになりそうにない、環境の変化に鈍いのは、我が国工業界のお約束。
例えば、今では当たり前になっている自動二輪車ヘッドライトの常時点灯。実現までに長い時間を要しました。1980年1月25日付の朝日新聞夕刊「白昼も点灯せよ  二輪車死角事故に効果」から引用します。
(前略)2月から沖縄を含む九州全県で、二輪車に限って「昼間の点灯」が義務づけられる。大型車の左折“死角事故”対策として一部の県警が実施したところ「効果あり」の結果が出たためで、欧米並みに白昼、前照灯をつけっ放しのオートバイやバイクが街頭を走り回ることになる。二輪車事故の続発に悩む警視庁など首都圏の県警も「成功すれば導入する」意向を示しており、全国へ波及する勢い。(引用おしまい)
欧米ではすでに施行されていた昼間のランプ照灯。世界を席けんしていた日本メーカーにできないわけがありません。ところが製造各社は、小型車の電力不足を理由に二の足を踏みます。引き続き、同記事から引用します。
(中略)各メーカーはすでに、対応策の検討を始めているが、“即効薬”はないという。「大型に取り換えると、かなり割高になりそう」(鈴木自動車)「バッテリーだけを交換すればいい、というものではないので、設計を変えるしかない」(本田技研工業=本社・東京、ヤマハ発動機=静岡)
ただ、カナダやイギリス、オーストラリア、アメリカの一部では、「昼間点灯法」まで設けており、輸出車にはこうした対策がしてある。設計変更は可能だが、新型車が割高になるのは避けられず、運動が全国的になれば、在庫や製造中のバイクの販売にも支障が出そう。「死活問題になりかねない」と、各メーカーは深刻に受け止めている。(引用おしまい)
取材した記者がカットしたのかもしれませんが、1社くらい「お客様の安全を思えば」の一言を言って欲しかった。コスト管理が企業経営の基本であることは理解できます。でもね、車検を受ける中型・大型車から先に運輸行政当局と折衝を始める術はあったでしょうにね。
保安基準の改正により、常時点灯が義務付けられたのは、1998年4月以降の生産車から。九州での実施以来、なんと18年ですよ。顧客の安全ではなく自社防衛に重きを置くのだという企業論理がわかります。
余計なモノを作らない会社を信用したい、と書きました。一方で、何もしない企業は困りもの。ライダー自身が、情報を取捨選択して生き残るしかないのでしょう。
この項、続きます