コピー禁止

2015/01/21

「徳川セックス禁止令」と警視庁

オトナの男は、女性のハダカが大好きです。したがって、その需要を満たすべく、メディアもせっせとハダカ映像を作ります。かつて、こどもがテレビを見ている夜9時台に放送されていたドラマ「時間ですよ」には、毎回のように若い女性のハダカが登場して、全国の母親が眉をひそめたものでした。
映画界はもっと露骨です。1960年代後半からテレビにお客を取られはじめた大手制作会社の一部は、お色気路線にシフトします。日活は「ロマンポルノ」、東映は「ピンキーバイオレンス」なる看板で、ハダカ作品を濫造。1970年代には、愉悦の表情を浮かべたハダカの女優さんのポスターが、小学校の通学路のあちこちに貼られた素敵な風景が見られたものでした。
おじさんの愛するハダカ映画の一つに「徳川セックス禁止令 色情大名」という、題名からしてイカレた東映コメディがあります。私的には名監督だった鈴木則文が撮り、私的に名優と認ずる名和宏さん、殿山泰司、山城新伍らの個性派が並ぶ。杉本美樹さん、フレンチ美女サンドラ・ジュリアンのきれいどころが脱ぐ方の係を務めた、金をかけた時代劇の体で下ネタとバカバカしさを追求した娯楽作品です。
そんなたわいのないプログラムピクチャーの摘発を検討した組織がありました。警視庁です。当時、日活ロマンポルノ作品を「わいせつ図画」として起訴に持ち込むための捜査に傾注していたイケイケの警視庁保安一課は、「セックス禁止令」にもその眼を一瞬とはいえ向けたのでした。
その理由がヘンです。1972年5月26日付の朝日新聞「和戦両用 ポルノ界、大揺れのTV・映画」から引用します。
4月26日から上映された東映の「徳川セックス禁止令」が警視庁保安一課で、物議をかもした。
映画の中に当時の風俗取締役人として「中村久左衛門」という人物が登場、きびしい取締りをする。ところが、これは中村久男保安一課長の名前をもじったのではないか、というのだった。取締りについての「あてつけ」「皮肉」との声が出たが、問題にするのも大人気ない、ということに落ち着いた。
東映宣伝部「へんないいがかりです。ちゃんとした原作があるんですよ、あれには」(引用おしまい)
マジメな話になりますが、捜査に及ばずとも警視庁で上記の議論が行われたことは非常に危険だと思います。論点が私怨にズレてしまっている。市民の安全保障であるべき行政の目的が、取り締まりのための取り締まりにシフトしています。山東京伝が洒落本書いてパクられた江戸時代じゃあるまいし、現憲法下の日本に見せしめは似合いません。権力は暴走しがちだ、とのあるあるを忘れてはいけませんね。
「原作がある」と言い抜ける東映宣伝部のコメントがふるっています。閨房禁止令を出した藩主に、欲求不満の領民が「やらせろ一揆」を起こす。こんなふざけた脚本に原作があるのならぜひ拝読してみたいもんだ。
うさんくさい映画ビジネスの世界に生きる東映マンの言い訳が、いかにも口八丁のエンタテイメント業界人らしくてほほえましいですね。一般の人が言えば、落語に出てくる与太郎の屁理屈に過ぎませんが、さすがは東映。