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2014/12/28

ケンカ屋「マッサン」

NHK 朝の連続テレビ小説「マッサン」の今年分の放送が終わりました。
いやもう、なんかすごいことになってます。ドラマ公式サイトに、鴨居商店(モデル・寿屋、後のサントリー)の社員役の皆さんの座談会みたいなのが載ってるんですが、皆さんご自分の役について、「きっと秘書的役割だと思う」とか「開発担当らしいが何も開発しない」とか「大将の意向の一端を担っているのかな」など、キャラクターづくりに戸惑っておられるご様子。脚本と演出は何やってんだか。
主人公をつくづく社会不適合者として描いた前半。サントリーに気兼ねして、ニッカをおとしめる方向で物語を作っていたのだと思っていたら、あわただしい歳末に「イミテーション(模造)の鴨居(モデル・サントリー)」というセリフ爆弾を投げ込んできました。
今は知らず、しばらく前のサントリーウィスキーは、その膨大な出荷量、原酒の味がぼやける水割り推進キャンペーン等から、製品の中身のついていろいろと言われてきました。まあ、諸悪の根源は、消費者より企業大事の酒税法にあったわけですが。
食通で有名な医師、栗原雅直・大蔵省診療所長(当時)が、1995年6月24日付の朝日新聞に書いたエッセイ「食楽考」から引用します。
(前略)原酒にどれだけカラメルで味をつけ、アルコールを混ぜようが、飲む人さえ満足なら、それでいいのだろうか。
(中略)ウイスキーでもモルトをどうブレンドするかは蒸留所の自由裁量である。しかし最近のスタンダード物はブレンド率がひどいと思えるほどまずい。それを広告だけで売ろうとしている。
ウイスキーをストレートで飲むと胃に悪いという話が、何となく口コミで流されて、われわれは銀座のバーの暗がりで味を希薄にした水割りウイスキーをすするよう条件づけられてしまった。
しかし本当に胃に悪いのは、冷たい氷やビールの泡の刺激のほうである。胃潰瘍の活動期でもなければ、チーズで胃の粘膜を保護してウイスキーを飲めば、そう胃にこたえない。
いつかイギリスの保健食品関係の大臣が来日したとき、スコッチはストレートで飲んだ方がおいしい、日本人はもっとストレートを飲んで輸入を増やして欲しい、と言った。しかしその話はいつの間にか立ち消えてしまった。
もし日本人が本当にスコッチの味を知ったなら、集中豪雨的にスコットランドの蒸留所を買い占めてしまう。すると原酒の価格がはね上がって、日本排斥運動が起こるに違いない。(引用おしまい)
栗原さんによれば、グルメ的・医学的見地から、ウィスキーは常温を生のままで飲むべきであり、広告だけで売ろうとする、ひどいブレンドのジャパニーズスタンダードはマズイ、ということですね。
マッサンでも、貯蔵の浅い、本来なら商品にならない原酒を翻意されてブレンド、スモーキー過ぎる原酒をごまかしにぶち込んだ大不評商品を市場に送り出し、大将から営業行きを命じられる下りなど、本当にニッカの創業者竹鶴政孝をモデルにしているのか、心配で仕方がないのですが、年末時点でサントリー、ニッカ、視聴者と、四方八方にケンカを売って、だれ得なのかわからない脚本は、まことナゾです。
 いい加減な日本の酒税法を味方に、好きに製品を作ることができるメーカーは無敵なのか? いやいや、消費者団体があります。
198111月2日付の朝日新聞「今の酒は本物と言えない 日本消費者連盟・船瀬俊介」から引用します。インタビュー形式のカギカッコは、おじさんが外しています。
(前略)年間1億4千万本を売り、同じ価格帯のウイスキー中の86%という圧倒的シェアを誇るサントリー・オールドは原酒(モルト)の混入率が27%強に過ぎません。
その原酒も英国では政府がかぎを預かって3年は寝かせなければいけないのですが、そんなに寝かせてはいないでしょう。3年余り前の1978年、サントリー・オールドのラベルが変わったのをご存じですか。
Genuine Quality(純粋の品質)がSpecial Quality(特別の品質)に変わり、Very Rare Old(非常にまれな古さ)の文字はなくなりました。また、Distilled……by Suntory(サントリーで醸造……)はBlended……by  Suntory(サントリーでブレンド=混ぜ合わせ=をおこなった)になりました。これらは、日本消費者連盟が、それまでの表示は不当だとして公取委に取り締まるよう要求したあとで変えられたのです(引用おしまい)
おじさんは、居酒屋でプレミアムモルツや角ハイボールを注文するので、決してサントリー嫌いではありません。一方で、ブランデーに「V.S.O.P」などという、世界的に等級を示す言葉を商品名にしてしまう感覚には違和感を覚えます。法的問題はないとしても、酒造会社として酒文化をどう考えているのか、の意識の有無は大事です。
人間ドラマとしては、完全に破たんした「マッサン」が、企業告発作品になるのであれば、過去に例のないチャレンジングな朝ドラとして、記憶される価値が出るのではないか。テレビ小説じゃなくて、「ルポルタージュにっぽん」ですね。
 現在の公共放送に、かの番組のごとき骨のあるプログラムはないので、ちょうどいい。年が明けてマッサンが独立したら、「鴨居のような模造は造らんのじゃ」と宣言して本格派ウィスキーに邁進、お上の酒税法にも文句を言う、竹鶴政孝そのものにモデリングする。
嫌われるだけ嫌われても、表現の自由を墨守して「美味しんぼ」のように問題提起を行い、壮絶な自爆を遂げるのであれば、 視聴者もおカネを払う値打ちがあるというものです。やってみなはれ。