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2014/11/08

「マッサン」は人のためにならんわ(2)

マッサンには専門医が必要です。徳利に直接口をつけて酒を飲む悪癖から、慢性のアル中が疑われます。飲酒量も多い。あれだけの砂糖を入れたマーマレードを一気食いする人なので、酒と砂糖の過剰摂取による糖尿病を併発している危険も。こりゃエリーより先に死ぬな。こんなの相手に、どう感情移入しろと?
家主の使用人のしつけもなっちゃいません。店子とはいえ、家に上げて上座に座らせるのであれば客人。「(家の主人が)いらっしゃいます」ではなくて、「参ります」と言わなければいけません。
しつこく噛んで含めるナレーションが幼児向けにつくってありますが、よい子のみんなはドラマのマネしちゃダメですよ。

前項からの続きです。大人気朝ドラ「鳩子の海」の脚本家交代劇を取り上げています。
引き続き、1974年8月29日付の朝日新聞「『鳩子の海』途中で作者おろされる」から引用します。
一方、林氏にしてみると、NHKの申し入れ当時、2カ月余り先の9月28日の放送分まで台本を渡していただけに、「執筆の遅れ」など思いもよらぬ話。「1年間の予定で構想をねったストーリーに、途中で他人が入っては運びが狂ってくる、遅れはがんばって取り戻す、などと主張したが聞き入れられなかった」という。
ストーリーは戦災孤児だった鳩子の戦後の人生を、その時代の世相を背景に描くもので、現在は60年安保当時の騒々しい時代にさしかかっている。姉、優子の友人、冬人が安保デモと警官の激突にまきこまれて負傷、入院するエピソードが中心。
「反安保、反体制の内容がとがめられたのではないか」とカンぐる声が放送作家たちの間にあるが、NHK側は「純粋に制作スケジュール上の問題」と否定している。
林氏の代役を引き受けた中井氏も、こうした事態にいや気がさしたのか、執筆も進まないらしく、この1カ月で書きあげたのはまだ2週間分。台本の遅れはますますひどくなったわけで、制作スタッフをあわてさせている。(引用おしまい)
結局、脚本家組合からの申し入れを受けたNHKは、9月末からの5週間を中井脚本で済ませ、残りは原作者復帰で手が打たれたようです。5週も安保で引っ張れませんから、原作者を戻しても問題ありませんね。
交代の真相はヤブの中ですが、2ヶ月先の台本を渡している、大ヒット作の脚本家を降ろす理由が遅筆とはいかにも弱い。林秀彦は、朝ドラを日本中に知らしめた「おはなはん」の原作者林謙一の息子、つまり「おはなはん」のモデル林はな(詳しくはこちら)の孫にあたります。普通は切りにくいですよね。
反体制的描写が原因だとすると、圧力に屈した、もしくは自主規制を行ったNHKが表現の自由を曲げたことになります。情況証拠を積み上げてみます。
当時の同局会長は小野吉郎。田中角栄に取り立てられて、公共放送トップに就任した元郵政次官です。後に田中がらみのスキャンダルを起こして会長職を辞します(詳しくはこちら)。キナくさい感じがしますが、まあ、疑わしきは罰せず。川口部長の後の会長就任も重畳です。
籾井勝人現会長も、小野と同じ官選です。「ニュースウォッチ9」が政府広報番組に成り果てていることから、影響力の行使がうわさされています。こちらも後年、歴史ミステリとして、「NHK秘話ヒストリア」で検証してもらいたいものです。
では、「マッサン」の脚本家交代はありうるのか。まずありません。同じ「優子」でも、「鳩子」の優子は、料理に塩を投げ込んだり、英文タイピストになりたいなどと口走ったりするヒマなく、戦後日本に生きる自分がいかにあるべきかを求める女性だったと記憶しています。
「鳩子の海」の気概など皆無の「マッサン」は、政治や社会問題とは無縁の漂流を続けて、春にはだれ知らぬ浜に流れ着くのでしょう。