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2014/09/07

「花子とアン」、つまらなさの秘密(3)

毎朝ドラマ寄席、本日は帝国コント「憲兵さんと革命さん with 蓮子さん」をお送りします。

憲:宮本龍一さん。セリフ工作の一件で確かめたい事があります。制作局までご同行願います。 調べはついています。仲間と台本を変える計画をしている事も。
革: ああ、そうだ。何が悪い⁉︎ こんなドラマは、さっさとやめさせるべきなんだ!
憲:あなたは何をやってるんだ! 脚本家さんやスタッフたちの事を考えたらどうだ? 何よりもまず守るべき人たちがいるだろう!
革:このドラマは、どんどんおかしくなっていく。それを止めずに、視聴者や放送文化を守れるか!
憲:連行せい!
蓮:革命さん!
革:心配するな。視聴者と放送文化を頼む。
蓮:ドラマは面白くなるんですか?
憲:申し訳ありませんが、お答えできません。失礼。

前項からの続きです。朝ドラ「花子とアン」がなぜ、かくもつまらないのかを検証しています。今日は「史実の改ざん、またはスルー」に目を向けます。
上記の寸劇の基となったドラマのエピソード、無産党系のリーダー宮崎龍介の連行は事実です。1937年7月28日の東京朝日新聞「宮崎氏ら取調」から引用します。
豊島区目白3ノ3630弁護士宮崎龍介氏(46)は去る24日11時神戸出帆の長崎丸で上海に向かう途中、神戸港で憲兵隊員の同行を求められ26日、東京憲兵隊に連行、さらに同氏の渡支問題に関連して27日午前7時頃、元代議士秋山定輔(70)、実川時次郎(45)の両氏(注・2氏の住所は省略)を東京憲兵隊に同行、宮崎氏とともに取り調べを行っている。
右は現下の険悪なる日支関係につき民間有志の発意に基づき、宮崎氏がかねがね蔣介石と面識、かつじっこんな間柄にあるところから、直接蔣介石に会見、別途の運動をなさんとしたとも言われているが、北支の事態かくのごとき状態にある際、氏らの行動は穏当を欠くものであるとし、その間の真相を取り調べることとなり、かく召喚を見るに至ったものと見られている。(引用おしまい)
ドラマの通り、 宮崎龍介はすぐに、具体的には8月1日に帰宅を許されるのですが、劇中では「和平工作」なる言葉だけが独り歩きして、視聴者には背景がまったく理解できませんでした。
記事には「蒋介石」の名前がありますね。日本の戦争相手、中国国民党のトップです。この名前を視聴者に出しておかなければ、「和平工作」が思いつきの軽挙に矮小化されてしまいます。
でも、できないんです。そこをドラマで訴えるには、宮崎の父滔天と、清朝を倒した辛亥革命の中心人物孫文との関係を提起しておかないと、視聴者は置いてけぼりになります。セリフやナレーションで触れもしない。歴史をないがしろにしたツケですね。
長男の唐突な軍国少年ぶりも変ですよ。龍介・白蓮夫妻の息子香織は、家に出入りする中国・インドの留学生らと交流があり、当時としては相当開明的なこどもだったはず。宮崎の対米開戦論に同調することはあれど、中国との和平について父に楯突くとは思えない。ドラマは、モデルと180度違う宮本家を描いています。世界地図や新聞の国際欄を見るのが大好きだった香織は、ステロタイプの少国民と成り果てました。
本作は、村岡花子が深く関わった大政翼賛会もスルーするつもりのようです。翼賛会は戦争完遂思想徹底のための中核組織。1940年に発足したのですが、その辺りの年はドラマではすっ飛ばされて、いきなり太平洋戦争に突入です。当時の新聞を読めば、村岡がこの翼賛運動に傾斜していた様が大変よく読み取れます。
軍国体制協力態度をあいまいにして、彼女の文学の本質など語れようか。彼女の戦時体制との葛藤(もしあったなら)が伝わろうか。
「花子とアン」は放送終了後に忘れ去られていく単なる駄作ではなく、都合の悪いことは先送りにする、ネグる、逃げる、蓋をする、ごまかす、日本人の性質が顕著に表れたモニュメントとして嗤い継がれるべき作品なのかもしれません。