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2014/08/30

朝ドラは戦争を憎悪せよ(2)

前回に続き、神南蓮子・花子さんの漫才をお楽しみ下さい。

蓮:華族のお漫ざ〜い! 花ちゃん、亡くなったお義父さんはほったらかしで、最近犬のことばかり言うてまんな。
花:あない年寄り、どないでもええねん。かいらしないさけ、視聴者も忘れとるがな。それより作家センセが「アン」出してきいひん。いつまで家畜にかまけてけつかんの?
蓮:動物の話でもせなんだら中身持たへんさかいな。せやけど、確かにアン出さなあかん。インパクトあるでっかい動物出したらどや? 背中にごっついトゲトゲ付けてグワーッ吠えよんねん。
花:それアンギラスやがな。
蓮:ほんだら、センセの好きな長身ガッチリ系の柔道でもやってそな男優で、新キャスト出そか?  ほれ、東京オリンピックの…。
花:アントン・ヘーシンクやないかい。やめさしてもらうわ。

「花子とアン」は迷走に次ぐ迷走。とうとう放送に愛犬の名前を加えるアドリブまで入れて、娘のためにくっちゃべってくれました。電波の私物化などとヤボは申しません。ただ、家族周辺の都合だけの被害面提供が、戦争に触れることだと勘違いするのは、戦争体験者に失礼だし、戦後生まれの人たちに何の益もない。
1993年12月17日の「徹子の部屋」(テレビ朝日系)に、現・文学座代表の加藤武さんが出演しました。愛犬供出の経験者です。同月21日の朝日新聞「ビデオテープ」より以下に引用します。
(戦争中の)ある日、非常に非情な通知が、区役所でしょうな、あれ、区役所から参りまして。「無用な犬は供出せよ」。兵隊さんの毛皮にするんだってよ。当時、満州(中国東北部)とか極寒の地にいる兵隊の毛皮にするってんだよ。「提出せよ、何月何日までに」。
……みんなでかわいがってたマップ(加藤家の飼い犬)をだれが連れていきます? だーれもこの嫌な役を引き受けない。……おふくろの血がわれわれに伝わってるんだけど、生き物好きのね。このおふくろが、この役を引き受けちゃった。
……それから、あの生き物好きのおふくろがね、マップのマの字もいわなくなっちゃった。マップは禁句、うちでは。これはやっぱりもう戦争憎悪ですね。(引用おしまい)
最後の「戦争憎悪ですね」に重みがありますね。加藤さんは、本当に戦争を嫌っているのです。こんなセンス一つ持ち合わせていない公共放送を矯正する術はないのでしょうか?
そんなことはありません。BSで再放送している「カーネーション」を見ましょう。先日、死を目前にしたおばちゃんが、精神を病んだ末に戦死した息子を振り返るシーンがありました。
「待ち合いのテレビ見てたら戦争のことやっててん。勘助はよっぽどひどい目に遭わされたと思てたんや。あの子はやられて、ほんであないになってしもたんやて。けど、ちゃうかったんや。あの子はやったんやな。あの子がやったんや」
加害者・被害者両面のもどかしさ、罪深さと悲しみを見事に言い表した、いいセリフです。これこそまさに戦争憎悪。
朝ドラは戦争を憎悪せよ。その憎悪を頭ごなしに大所高所から演説することなく、視聴者に浸透せしめよ。翻訳家と歌人のヌルいヨロめきなどさっさと忘れ捨てて、戦争を憎悪せよ。戦争を憎悪するのだ。「カーネーション」など、軽く超えてしまえ。