コピー禁止

2014/07/03

戦争に殺される音楽

みんなはどんな歌が好きですか?おじさんはAKB48や嵐の曲はよく知らないけれど、何を歌ってもいいし、何を聴いても構わない権利があるのは、当たり前だけど素晴らしいことだと思います。自分の好きな歌が、いつまでも聴き続けられたり歌い継がれたりしたら素敵だよね。
しかし、その自由をぶち壊す邪魔者がいます。戦争といいます。今日のお話は、せっかく生まれたのに戦争のせいでお墓に入れられてしまったかわいそうなナンバーたちの葬送曲です。1945年2月1日の朝日新聞「音盤文化賞決まる」を引用します。

昭和19年度音盤文化賞(日本音盤協会)は左のとほり決定した。
交響曲「光華門」中勘助詩、橋本国彦曲。歌曲「若鷲の歌」西条八十詩、古関祐而曲。同「大航空の歌」航空局企画制定。同「勝利の日まで」サトウ・ハチロ-詩、古賀政男曲。(中略)唱歌「僕は空へ君は海へ」サトウ・ハチロー詩、佐々木すぐる曲。同「お山の杉の子」日本音盤協会選、佐々木すぐる曲(引用おしまい)
日本音盤協会は現在の日本レコード協会です。
橋本国彦は戦前の日本クラシック音楽のリーダー的存在でした。「光華門」は「交響曲」と書かれていますが、歌の付いた、今で言うカンタータだったようです。おそらく二度と演奏されることはないでしょう。タイトルの「光華門」は、日本軍の南京攻略戦のシンボルでした。国際的な非難を浴び続けている南京戦を賛美する内容になっている以上、泉下の橋本も再演を望まないでしょう。彼は戦後、戦争放棄の現行憲法施行を祝う交響曲を書いています。
「若鷲の歌」は、戦中派の人たちが昔はよく歌っていました。「若い血潮の予科練の七つボタンは桜に碇(いかり)」という歌詞。「予科練」とは海軍のパイロット練習生。このころには、ずいぶん特攻で死んでいます。今ではテレビで流れることもありません。作曲の古関裕而は、本来軍国主義者ではなく、阪神タイガースの球団歌や、夏の高校野球でかかる「栄冠は君に輝く」などを残した人です。サトウハチローにしても、敗戦直後に日本人に希望を持たせた「リンゴの唄」を書きました。
才能あふれる作家でも、戦争をしている間は好きな作品をつくることを許されなかったのです。それでも一所懸命につくり上げた曲は、民主主義国家になれば葬り去られました。おじさん個人としては、これらだって自由に聴くことができる社会の方が住みよいのですが、経てきた人生は人それぞれ。二度と聴きたくないと思う人の気持ちも考えなきゃいけないかもね。
戦争は人を殺します。その時代に生きる人々の明るい未来も殺します。音楽すら殺します。